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太陽に向かって走るな
ぼくたちはいつも、学校が終わって一度家に帰ってから川で遊ぶ。
家に帰るのはいつだって夕日が沈む時刻だった。
今日も帰り道が同じ方向の友達数人と一緒に帰るけど、ぼくたちは帰る時にも遊んでいる。
河川敷から土手に上がって、夕日に向かって走って帰るという遊びだ。
太陽の沈む方向に、ぼくたちの家があるから始まった遊びだった。
今日も昨日と同じように走る。
でも今日はちょっとだけいつもと違った。
両目に太陽の橙色が一直線に飛び込んできて、ぼくは思わず目をつむる。
でも太陽の光は消えないで、ぼくの目の中にまだいるのが見えた。
たまらず目を開けると、また橙色が飛び込んでくる。
目の前が光で包まれていて何も見えない。
転ぶ。
倒れる。
土手から河川敷へと転がり落ちる。
友達が何人か駆け寄ってくる音が聞こえたけれど、ぼくは頭がくらくらしていて何も言えなかった。
気が付くと病院に居て、ぼくはお医者さんの治療を受けていた。
包帯が頭に巻かれている。
ちょっとかっこいいな、と思ってぼくはにやけたけれど隣にいるお母さんに気づかれて叩かれる。
お母さん、怪我をしていますので……。
お医者さんにそう言われて、お母さんはすみませんと小さな声でお医者さんに謝った。
謝るのはお医者さんではなくて、ぼくにではないのだろうか、と思ったけれどまた叩かれると思ったので言わなかった。
脳の方には異常ありませんが、念のため明日眼科にも行ってください。
お母さんとお医者さんが何か話しているけれど、ぼくは早く帰ってテレビが観たいなーとか、明日学校で友達に病院でのことをどう話そうかなーとか考えていた。
次の日、体調はなんともなかったので眼科に行った後、みんなからだいぶ遅れて学校についたけれど、クラスに入った瞬間に休めばよかったと思ったのは友達にも言えない。
頭にケガをして包帯を巻いて登校すると、一日中友達だけじゃなくてクラスメイトみんなから囲まれてしまうなんてこと想像してなかった。
勉強も給食も休み時間に遊ぶのも思いっきりできなくて、かっこいいと思っていた頭の包帯を早く取りたいと強く思ったし、やっと帰れると思ったら帰りの会がいつもより長引いて本当に登校しなければよかったと後悔した。
いつもはすんなりと終る帰りの会が長引いたのは、クラスのルールがひとつ追加されたからなのだけど……そのルールがなんともいえないものだったのだ。
『西日に向かって走らないこと』
正直、ぼくたち以外には意味の分からない言葉だったと思う。
この新しく出来たルールについて学校帰りに友達と話したが、ぼくたちの遊びのせいだということで落ちついた。
その後、ぼくの頭の包帯が取れてからまた川で遊ぶようになったけれど、ルールは破るためにある!と友達のひとりが言い出して結局あの夕方の帰り道の遊びも続いている。
……ちなみに次の年から校則に『太陽を見ながら走らないこと』という奇妙な文言が追加されたのだけど、きっとこれもぼくたちのせいだろう。