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スズメに注意

僕には少し困っていることがある。

それは通学途中に毎回と言っていいほど起こることだ。

僕が学校へ行くために歩いていると、僕のすぐ目の前を一羽のスズメが横切って行くのだ。

それも本当に、ギリギリのところを。

僕の歩く速度が少しでも早くなっていれば激突してしまう、そんな飛び方だった。

普通さ、あんなにギリギリで危ないとび方しないと思うんだよね

そのことを下校仲間に話して聞かせると、面白いとかそんなのウソだろとか反応はそんな感じだったと思う。

その中でもひとりの子が、発した言葉は意外なものだった。

その、スズメ調教受けてたりしてね

え?

ほら、小型爆弾とか仕掛けられててさ、ぶつかった瞬間ボカン!

なーんて

そんなことあるわけないだろ~

そうだよ、ないない

でももしあったとしたら、相当恨まれてるってことじゃない?

僕が、なんで恨まれるんだよ

そりゃあ……

言い出したその子はちょうど分かれる道になったので、そこで話は終わってしまった。




次の日、何故かその子が昨日別れたあの分かれ道で突っ立っていた。

僕は朝にその子と会うのは初めてのことだった。

おはよう、なにしてるの?

あなたを待ってたのよ

僕を?

今日はもうスズメの突撃は受けたのかしら

ほんの少し左に首をかしげて訊いてくる。

いや、まだだけど……

そ、それはよかった

満足げに笑うと、その子は歩き出す。

その様子を見ながらぼーと動かずにいると、その子が戻って来て僕の右手が掴まれた。

なにやってるの、行くわよ

ほら、歩いた歩いた

そのまま学校へと歩くのだが、あと数十メートルで着くという時にあの気配を感じて意識的に歩みを遅くした。


チチチッ


羽の音と鳴き声を残してスズメが目の前を横切った。

わ……本当だったんだ

その子は僕の少し後ろに居て、その様子を目撃していた。

いつも表情をあまり変えないその子が、目を丸くして驚いているのはとても新鮮だ。

え、ねえ、本当に毎日あんなにギリギリで横切っていくの

うん、まあ、そうだね

ううん、あのスズメ結構度胸あるわね

そっち?!

思わず大きな声が出た。

そりゃそうでしょ、毎日ギリギリで人の前横切っていくとか度胸が凄いでしょ

ぶつかる可能性だって、というかぶつかる可能性の方が高いのに一度もぶつかってないんでしょ?

すごくないスズメ、とその子は目を輝かせて締めくくった。

僕は何も答えられなくて、言葉の代わりに大きくため息をひとつだけだした。

ね、明日も一緒に登校していい?

っていうかするね、スズメの目撃者にならないと!

僕にノーと言う選択肢はなく、その日からその子と一緒に登校するようになる。

なんだかなあと思うのだけれど、その子がとても楽しそうだからいいかと気にしないことにした。


空気を吸い込むと、少しだけ夏の匂いがした。


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