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落ち葉拾い


寒い。


紅葉も終わる頃、私は姉となぜか公園で降って来る木々の葉を競ってキャッチしていた。

どちらがより多くの降って来る葉をキャッチできるのか。

そんなくだらないことをしている。


ねー、寒いんだけど

もう帰ろうよお姉ちゃん

駄目よ

なんでさ

だってあたしの方があんたより取った枚数が少ないじゃない

だからまだ帰らないわよ

ただでさえ切れ長の目なのに、それを更に細くして睨みつけられる。

姉の負けず嫌いがこんなところでも発揮されると思っていなかった私は、かける言葉が見つからず代わりに空気を飲み込んでしまった。

それならば、とこれから舞い落ちてくる葉を一枚も取らずに上手くやり過ごせば早く帰ることができるかもしれないと私は考えた。

でもそんな安直な考えは姉に見透かされてしまう。


あのさ、あんたまさか手を抜こうとか考えてないわよね?

そんなことしたらどうなるのか、わかってるんでしょうね


わかりません!

と私は答えたかった。

もちろん姉の言葉に私は何も返していない。

曖昧に笑って見せ、とりあえずこのまま落ち葉拾い、もとい落ち葉キャッチを続ける。

そもそもどうしてこんなことをする羽目になったのだろう。


三十分前のことを思い出す。


姉と宿題をしていて、珍しく二人とも同じ時間に終わったのだ。

そこでとりとめのない話をいくつかしていて、それで……桜の花びらの話になったのだ。

迷信で、落ちてくる桜の花びらを地面に着く前に取ることができれば願い事が叶うとかなんとか。

それで姉がどうして桜の花びら限定なのかしら、と疑問を口にして……落ち葉だっていいじゃないと訳の分からないことを言い出したのだ。

そのせいで今、こんな寒い中で姉と落ち葉を取り合うことになったのだ。

なんとあほらしい……桜の花びらの迷信のせいでこんなことになるとは思ってもみなかった。

しかも姉は運動神経も反射神経も私より良くない。

これではきっといつまでも帰ることができない。

暖かい部屋でごろごろなんて、夢のまた夢。



さいあくだ……

なあに、何か言った?

ううん、べつに、なにも言ってないよ

そう、それじゃもう一度やるわよ

ぁのさ、お姉ちゃん

なによ

寒いからさ、本当に寒いからさ

後十分だけにしない?

姉が怪訝そうな顔をして私を見つめる。

私は適当な言い分を頭の中で急いで組み立てる。

だってさ、何事も時間を決めてやった方がいいって先生たちも言ってたし

テストだって制限時間があるから実力が出せるって言うじゃない?

それに終わりがない戦いは不毛だって誰かが言ってたよ!

誰かって誰よ……まあ、いいわ

それじゃあ、十分間でどれだけ多く取れるか勝負よ

姉が提案に乗ってくれたことに安堵して、私は心の中でガッツポーズをした。

そして十分間、私は姉が悟らないくらいに上手く手を抜いて落ち葉をキャッチし続けた。












もちろん、十分で終わることはなく結局母親からの怒りの電話によって私たちは帰宅することになる。


そしてもれなく二人とも風邪をひいた。


付け加えると、願い事はそもそも考えてすらいなかったので叶っていない。







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