
出発
いたずらが好きな精霊たちが、お呼びでもないのに季節を早回ししようとしていた。
それを阻止するために春を呼ぶのが得意な旅人が何名か集められた……はずだった。
ちょっと、なーんで夏の方のアンタがきてるわけ?
ここに呼ばれるのは春担当……だったと思うけど
担当って言ってもさー、もともと旅人に担当なんてないんだから招集されてもってかんじではあるよね
……俺が呼ばれたのは俺が連れてる精霊のせいだろうな
夏担当と言われた旅人が興味のなさそうに答えると、ロングコートのフードから赤と青。
それぞれの炎を纏った精霊が顔を出す。
うぇっ、ちょっと……アンタ精霊増えてるじゃない!
二匹持ちとか……そりゃ招集されるわけだね
わー、すっごいね……触ってもいい?
いいけど火傷に気をつけろよ
旅人の一人が精霊に近づいてちょいちょいと人差し指を動かしている。
二匹の精霊は指から逃げるように部屋の中をふよふよと浮遊して移動し、旅人の一人がそれを追いかける。
他の三人はその様子を数秒だけ見て、それよりもと呼び出された件について話し始めた。
精霊が季節を早めようとしてるって書いてあったけど……本当かしらね
内容的には大雪を降らせて秋から冬に……って感じだったよね
でもそれだとお前らが得意な春を連れてきても意味がないだろ
それに、だ
冬に関係する精霊をお前らの能力だけで抑えられるとは到底思えん
最後の一言は余計だったということに気がつかなかったのか、そのまましゃべり続ける約一名。
精霊が動こうとしているのは例の山頂って書いてあったろ
あそこに生息している、もしくは集まってくる精霊ってのは冬に関係する奴らだけじゃない
あそこには春に関係する精霊も多数いる
ただそれよりも厄介なのは……
あーーーー、もうストップ!
アンタの話し長すぎるし、なに言ってるのかわけわかんないのよ!
賛成、ちょっと話し長すぎ
ん、なになに何の話しだっけ?
アンタはもうずっとそいつの精霊とじゃれあってなさいよ!
えー、仲間外れはさーみーしーいー
体をくねらせて三人のもとへ寄ってくる。
赤と青の精霊もなぜだかその動きを真似して主人のフードの中に戻っていく。
話しが全然進まないことに一名以外は多少いらだち始めている。
というかさ、もうこんなところで話してても無駄じゃない?
確かに、収集されたからってここで話してても意味ないよね
えー、せっかく集まったのにもうどっか行くのー?
そもそも話なら歩きながらでも出来る……俺は先に目的地に向かう
ちょ、単独行動する気?
扉の前で立ち止まり、振り返らずに精霊持ちの旅人は言う。
旅人はもともと単独行動だろ
見習いともなれば別だがな
それぞれやりたいようにやればいい……呼び込むスタイルも違うしな
二匹の精霊がフードから顔を出し、後ろにいる三人を見つめている。
微妙な沈黙が数秒続き、精霊持ちの旅人は扉を開いて行ってしまった。
……あたしも先に行くわ
アイツに先越されるの、癪だし
僕も行くよ
じゃあ私も行くー!
次々に扉を開いて目的地へと旅人が向かう。
少し先の方に精霊持ちの旅人がいるのを見つけると、三人は追い越すほどの勢いでその背中に向かって走って行った。
紅葉したての木々の影からその様子を見ていたものに気がついたのは、二匹の精霊だけだった。