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イイワケデパート
私の部下である彼と彼女は二人そろって屁理屈がすごい人だった。
私なんかでは到底太刀打ちできない、ひねくれものというか屁理屈の達人だ。
彼と彼女に何かを頼んだりしても絶対に意に染まないことだったり、面倒だと感じたことは屁理屈を言ってやらない。
どこからあんな屁理屈を捻り出してくるのか、可能であるなら一度、彼と彼女の頭の中を覗いてみたいものだ。
今日も彼に頼みごとをしたら簡単に断られた。
少し粘ったけれど、僕じゃなくてもできるようなことなら僕はやらなくてもいいということだ、とか訳の分からないことを言い残して去っていった。
仕方ないから彼女に頼むことにしたけれど、彼女にも断られた。
しかも似たような言葉で。
だけどそれでもこちらが引き下がらずにいると、明日できることは明日するのがあたしの信条よ、とか強めに言われて部屋から追い出されてしまった。
しかしそんな彼女はつい先日、賢者は昨日既に済ませているがあたしのモットーよ、と言っていたばかりだったと思う。
大きく溜息をついて、とりあえず明日もう一度話してみようと考えて自分の部屋へと戻る。
教授か誰か私よりもっと上の人から言ってもらうのが一番効果的だと思うが、そういう人達は皆忙しい。
それと比べられてしまうと、結局は私が一番動きやすい位置にいるのだ。
どうせ教授たちも下の者をきちんと動かすのが使命だよ、とか言って私の言葉を聞かないに違いない。
部屋に戻って、ぐったりと椅子に座り込む。
慎重に座らなかったせいで、椅子の背に背骨が当たってしまい絶妙に痛い。
少々涙目になりつつ机に突っ伏すと急激に眠気が襲ってきて、私はそのまま眠りに落ちた。
気がつくと私はヘンテコな名前のデパートの前に突っ立っていた。
あなたに必要なモノがここで見つかる!
なにかお困りのことがあれば三階へ!
言葉をお探しの方は七階へどうぞ!
なんでも揃うイットデパート!
妙なのぼりに妙な文言。
怪しすぎるので素通りしようとしたけれど、デパートの扉が勝手に開いて体が吸い込まれてしまった。
そして私の記憶が飛んで気がつけば『七』と書かれたフロアに立っている。
ようこそお客様
本日はどんな言い訳をお求めで?
は……?
意味が分からず失礼な声色で言葉が飛び出た。
ここにはどんな言い訳も揃っております
お客様のお役に立ちそうな言い訳ですと……
や、言い訳とか私には必要ありませんので
出口を探すために歩き出そうとしたが、またしても店員に止められる。
いえいえ、お客様は言い訳を必要とされております
そうでなければ、このような場所に吸い込まれるはずがございません
……吸い込まれる?
ええ、このデパートにはなんでも揃っておりますので
本当に必要があるお客様しかこのデパートには入れません
デパートがお客様を選んで吸い込み、必要な階へ導くのです
ですからお客様はこの七階にある言い訳を必要とされている……そういうことになるのです
人を吸い込むデパートなんて聞いたことがない。
これはきっと夢だ。
夢に違いない。
お客様がどうお考えになられようと、それは構いません
ですが、ここにいらっしゃった以上は何かを購入しない限り出て行くとは出来ません
いま気がついたけれど、この店員は私と会ってからずっと笑みを絶やさずに話続けていた。
表情金がその形で固まってしまっているのだろうか、というくらいずっと笑っている。
そしてゆっくりと、また口を開く。
お客様
もう一度お尋ねします
本日はどのような言い訳をお求めで?
店員の後ろには矢印のような黒くて細い何かが、ゆらゆらうごめいていた。