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友人はブラックホール
宇宙を漂うのは星の役目。
すくなくとも、ぼくに限っての話だ。
彗星になれなかったぼくは、仲間たちとお別れをして一人で宇宙をふらついていた。
宇宙は相変わらず広すぎて、その果てに辿り着くことはできなさそうだ。
それでもなぜだかぼくは、その果てを知りたくてずっと同じ方向へ飛んでいる。
お別れしたとき、仲間からひとつだけ忠告を受けた。
それは『ブラックホールは避けること』というものだった。
旅する星の鉄則だとか。
確かに、仲間たちと一緒に漂っていたときもブラックホールには近づかなかったなと思い出す。
理由は、そう。
近づきすぎると吸い込まれて、外に出てこられなくなるからと言っていた。
でも、実際ブラックホールってやつは、どんなものなのだろう。
本当に吸い込まれたら出てこられないのかな、なんて考えていると少し先の方からシクシクと泣いているような声が聞こえた。
気になって近寄る。
そこにはブラックホールがいた。
このシクシクという声は、どうやらブラックホールのもののようだ。
ぼくは吸い込まれないくらいの位置に近づいて、ブラックホールに話しかける。
どうして泣いているの?
誰だい、私に話しかけてくるのは
ここです、ここの小さな星が話しかけています
くるくると回りながら輝いて、ブラックホールにアピールする。
なんだい、とても小さな星じゃあないか
なんだって私なんかに話しかけるんだ
だって泣いている声が聞こえたものだから、気になったんです
ああ、そうか、聞こえてしまっていたのか
ブラックホールはポツリポツリと話し始める。
難しいことはよくわからないけれど、ブラックホールはどうして自分は満たされないのかと泣いていた。
沢山の星々を飲み込んでも、ちっとも満たされないのはどうしてなのか。
宇宙にある全ての星を飲み込んでも、きっと自分は満たされない。
他にも話していたような気がしたけれど、その大半はすすり泣きのせいで聞き取ることはできなかった。
小さな星、もう私から離れなさい
もう少しでも近づけば、きっと飲み込んでしまうから
ぼくは言われた通り、そっとブラックホールから離れた。
でも少し進んでから考え直してブラックホールのもとへと戻る。
ブラックホールは戸惑うような声で、どうしたんだいと尋ねてきた。
ぼくは言う。
きみにはきっと話し相手がひつようなんだ
だからぼくは戻ってきたのさ
吸い込まれないぎりぎりの位置で、ぼくはこのブラックホールと一緒にいると決めた。
ブラックホールは何も言わなかったけれど、それは一緒にいてもいいということなんだと思っている。
むやみに輝いて見せると、ブラックホールはちょっと迷惑そうに眩しいとだけ言った。