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マイナス等級を観よう


一番星よりも強い光で輝いている星があるということを、私はあいつに教えてもらうまで知らなかった。

そもそも星にマイナスがつくなんて思いもよらなかったし、なんだマイナスってという感じだ。

しかも一よりも零の方が明るい星だというのもなんだか納得がいかない。

そもそも私の観ていた一番星は、あいつによると大体金星ということでしかもしかもその金星すらマイナスのつく等級なのだとか。

私は一と言いつつマイナスの星を一番星と言い続けていたというわけだ。

言い続けていたし、信じ続けていた。

それをあいつに解説された時、私は叫んだ。

大いに叫んだ。

一なのにマイナスとかありえない、変、絶対に変だ、と。

もちろんあいつは私のそんな反応には構わず、涼しげな顔をしてお茶を飲んでいた。

そんな余裕のある態度にも腹が立ち、無言で脛に蹴りを入れたら流石に痛そうな表情をしていた。

ざまあみろ、と思ったことは口に出していないが、恐らくあいつにはバレているだろう。

少し不機嫌な顔になりつつあいつは言った。

星、星っていうけどよ

俺からしたら太陽も月も等しく星だ

遠くにあって肉眼ではどんな星なのかわからないくらい小さなものしか星と認識していないお前は愚かだよ

今思い出しても腹が立つ。

言い方も、声も、最悪だ。

しかも私のことを指して『愚かだ』と言い放った。

あんなに堂々と人を見下す態度をとるようなやつだとは知っていたけど、思っていなかった。

いや、訂正。

ちょっとだけ、ほんのちょっと、東京タワーくらいの大きさでは思っていた。

昔から衝突を繰り返していたけれど、悲しいかな、本当に衝突しかしない。

相性が悪すぎる割に腐れ縁で大学まで一緒になって、ゼミも一緒で受けている講義も似たり寄ったり。

ほぼ毎日、休日以外は顔を見ている気がする。

休日すら出くわすことだってある。

私に安息日はないのかというくらい、あいつと顔を合わせては衝突を繰り返す。

星だったらきっと、こんなに衝突していたらどちらかもしくはどちらも粉々に砕け散って宇宙の屑になっていることだろう。

どうせならこっちも砕け散ってくれてもいいのに、と思う。

主にあいつが。

心の中で口には出せないような酷い悪態をついていたら、携帯が鳴って着信相手の名前すらみず反射的に通話ボタンを押す。

よう、暇してるんだろ?

ちょっと出て来いよ

声を聞いた瞬間に通話を切る。

するとまた携帯が鳴る。

もちろん相手はあいつだ。

出ないで無視をしていると今度は玄関の呼び鈴が鳴り始める。

それも無視していたかったが、近所迷惑になりそうだから扉を開けてあいつを向かい入れた。

部屋には入らずあいつは玄関でこう告げた。

隣町の天文台、今日市民に開放されるんだってよ

行くだろ?

相変わらず腹が立つくらい余裕そうな表情をしていた。

そしてその表情からは私が『行かない』と言う選択肢はないように思えた。






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