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歴史改変の野望
偶然の産物とはいえ、とんでもないものを彼女は創り出した。
タイムマシンの最後のピース、時空を捻じ曲げて目的地へと進むための動力だ。
当初、全く違う実験をしていたところ出来てしまったそのピースは捨てられそうになったのだが、彼女がそれをタイムマシンの動力に出来るのではないかと言い出し、そのようになった。
彼女の動物的勘というか、思い付きというか、そういうものは正直僕等には理解が出来ない。
しかし、彼女の中では確信にも似た何かがあるらしく、毎回迷うことなく実験と検証に移る。
そしてそのほとんどが成功する。
それでも多少の失敗はつきものではあるのだけれど。
そんな彼女であるが、とんでもないことを言い出していて僕等が現在進行形でそれを思いとどまるように説得しているところである。
やめときましょう、さすがにそれは危険かと……
そうですよ、歴史改変なんてしたらとんでもないことになりますって
現在に戻って来れないか、戻って来ても僕等の知らない世界になっている可能性があって危険です
可能性があるってだけでしょう、それなら実際にやってみて検証する必要があるじゃないの
ですから、その実験というか検証そのものが危険だから止めましょうって、さっきから言っているんですよ
三対一でも彼女は引かない。
言っても無駄、ということは僕等全員が薄々わかっていたことではある。
それでも、彼女のしようとしている意味の分からない歴史改変は止めなくてはならない。
そもそも、ですよ?
なんで各時代の織田信長をひとつの時代に連れて行って、戦国時代がどう終結するのか見ないといけないんですか?
あなた、それはとんでもなく愚問だわ
あたしの下についているのに、よくそんな問いが出来るわね
なぜそんなに呆れたような顔をされているのか、僕等は理解出来なかった。
そんな僕等に彼女は彼女なりにわかりやすく説明をする。
もちろん、手を動かすのは止めずに。
昔、どこかの誰かが言っていたのよ
『織田信長だらけの世界だったら困る』ってね
あたしは本当にそうなのか、常々疑問だったのよ
本当に織田信長だらけの世界は困るのかって
とはいえ織田信長は既に死んでしまっているし、タイムマシンが出来るまで歴史は再現性がないものだったから検証も出来なかったのよね
でも、今は違う
タイムマシンが完成したから
歴史の再現性を検証出来るようになった……ま、あたしがしようとしていることは違うけれど試せるなら試してみた方が良いでしょう
説明されても納得も理解も僕等には出来なかった。
でもそんな僕等でもひとつだけ理解できたことがある。
彼女を止めることは出来ない。
僕等は三人で目配せして、誰がタイムマシンで彼女について行くか探りあう。
三人全員から行きたくないという色が窺える。
僕等がそんなことに時間を取られていると、後ろから彼女の強気な声が届いた。
それで、誰があたしと一緒にタイムマシンに乗るのかしら
準備万端らしく仁王立ちをして僕等三人を睨みつけている。
僕は観念したように、しぶしぶと一歩前に出た。
三人の中で一番彼女と付き合いが長いのは、僕だからある意味当然の結果だった。
それじゃあ、二人は居残りね
行くわよ
彼女は軽快なステップ、無駄のない動きでタイムマシンに乗りこんだ。
僕は気乗りしないまま、なるべくゆっくりと時間をかけてタイムマシンに乗り込んだ。