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孤島

黒い海がある。

それは彼等の住む島の周りに存在していた。

黒い海に囲まれた孤島に彼等は住んでいた。

隔離された世界、そう言ってもいいだろう。

海の外からやって来る者はなく、彼等自身も島から出ていくことはない。

彼等はそこで生まれて死んでいく。

その島だけで完結する。

それが彼等だった。

しかしある時、それが不意に破られることになる。



海の向こうから来訪者がやって来た。

それは本当に突然のことで、彼等は何が起こったのか理解できなかった。

深い青色で塗装された大きな塊。

それが水に浮いて彼等の島へ向かってくる。

お呼びでない来訪者。

彼等の大半はそう思っていて、ごく少数のみがその船の船員を歓迎した。

実のところこの船はただの迷い船であった。

しかしそんなことは彼等には関係のない事で、とにかく不気味で仕方がない存在だ。

それでも彼等はその来訪者を島に上陸させることを赦した。

その来訪者は島の一部の土地を与えられ、しばらくそこに留まることになる。

というのも、来訪者は帰りたくても帰ることが出来なかったからだ。

彼等の島は黒い海に囲まれている島で、外から隔離されている。

彼等の島は外から視認されていない島であり、本来であれば誰もやって来ることが出来ないのだった。

しかし時として、嵐に巻き込まれた船がこの島に、黒い海に迷い込んでしまう。

そして迷い込んだら最後、この黒い海からは出ていくことは出来ない。

今現在、島に住んでいる彼等はそれを知らないが、七世代前の彼等はそれを知っていた。

今の彼等の間でもいわゆる御伽噺として伝えられていたことではあるが、彼等はそれを忘れてしまった。

あまりにも今の彼等にそぐはない話だったからだ。

この島はかつて重大犯罪を犯した者が『人ではない』と烙印を押され、流され、隔離されるために作られた場所であった。

【人でなしの島】と外では呼ばれていたが、外でもこの島の存在を忘れてしまっている。

だから外の世界では海で消えた船が帰って来ないことについて、ただ難破して海の底に沈んだのだろうと思われている。

まさか外の世界で作られていた過去の遺物である島に、流れ着いているなど思いもしないだろう。



さて、流れ着いてしまった来訪者であるが、結局のところその島から出ていくことが出来ず、その島に住み着くことになる。

来訪者はその島の半分を占領するようになり、そのうちに島全てを占領することになる。

彼等はそれに対抗するのだが、抵抗したがゆえに全滅してしまうことになってしまう。


もう一度言うが、ここはかつて『人でなし』が住んでいた島である。

しかし外の世界からの来訪者により『人でなし』の血は途絶えてしまう。

来訪者と彼等。

一体、どちらが『人でなし』であるのか。

それともこの島に迷い込んでしまった来訪者も『人でなし』だったのか。

今となっては、誰にもわからない。




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