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【白影荘の住人】挨拶回り-2/2

102が最後ならばと105から回っていくことにした僕は、本日三度目のインターホンを押す。

一分ほど経ったが出てこないので、もう一度押してみたがやはり出てこない。

扉の向こうから変な電子音は聞こえてくるので誰かいるとは思うのだが、三回押しても出てこなかった。

仕方ないのでまた来ることにして、僕は隣の103号室のインターホンを押した。

というよりも押そうとしたのだが、それより少し前に扉が開いて青い目の少年が出てきた。

「?」

「あ、僕202ご」

「あ!新しい入居者さんだね!」

そう言うが早く少年から軽くハグをされる。

少年かと思ったけれど、ハグをされて僕よりも背が高いことや体がしっかりとしていることがわかった。

「ボク、アハシュ。みんなからは、シューって呼ばれてるから、君もシューって呼んで!」

満面の笑みで自己紹介と呼び方指定をされたので、彼のことはこれからシューと呼ぶことに決まった。

なんとなく僕はフルネームで名乗ることにした。

「僕は箒、ホウキミナト」

「オーケー、じゃあミナトって呼ばせてもらうね!よろしく!」

差し出された手を握るとシューはやはり見た目こそ少年のようであるが、少年ではないことがはっきりとわかった。

大きくて硬い手。

なぜだか古い大木の表面を僕に思い起こさせた。

「あ、その顔。ボクのこと子供だと思ってたでしょ?ずーーっと昔に成人してるから、そこのところも含めてよろしくミナト!」

僕は無言で大きく首を縦に二回振る。

シューは満足げに頷くと握っていた手を放して扉を閉めた。

フリーズしてしまった頭でシューが扉を開けたのに外出せず家の中へ戻ったのは何故なんだろうとか、少年のような見た目のこととか考えてみたけれど答えは出なかった。

放心したまま102号室へと歩き、本日何度目かのインターホンを押す。

しかしインターホンが壊れているのか音が鳴らなかったので、直接扉をノックしてみると数秒後に扉が開いた。

「ぅ……!」

扉を開けた瞬間、くすんだ白い煙が中から溢れ出てきた。

「んー、誰だい」

「あ、えっと」

「あー、そういえば今日新入りが来るとかアマヒトが言ってたかね」

「は、はい。202、上の部屋に越してきたホウキと言います」

そうかい、と言うとその人は僕のことを品定めするように見やる。

在所さんから102号室は煙夫人と聞かされていたけれど、目の前にいるこの人は夫人というよりおじいさんである。

僕の品定めが終わったのか、その人は口を開いた。

「煙夫人、アタシのことはそう呼んでおくれ」

「ふ、夫人ですか……」

「ふむ。お前さん、ひとつ覚えておくといい。性別なんて小さなものに囚われていると、本質を見失うよ」

そう言い放つとその人、煙夫人は僕の手から粗品をかっさらい乱暴に扉を閉めた。

扉は閉められたはずなのに、まだ煙は僕の目の前に意志を持った存在のように滞在している。

「あ……105の粗品」

煙夫人に105号室用の粗品も奪われたことに気が付いたが、また扉をノックする勇気など僕は持ち合わせてはいなかった。

大きくため息をついて102号室の扉に背を向ける。

僕はとぼとぼと階段を歩きながら202号室へと戻った。


玄関を開けて部屋に帰った瞬間に疲れが襲ってきた。

ただの挨拶回りをしてきただけだというのに、なぜこんなに疲れているのだろう。

この妙な疲労感に耐えかねて僕は六畳の真ん中に倒れこむ。

畳の匂いが鼻をくすぐる。

しばらくの間ずっとうつ伏せのままでいたが、ふとこのアパートに1号室と4号室がないことに気が付いて体を起こす。

周りには手付かずの段ボールが僕に開けられるのを待っていた。




【挨拶回り 終】

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