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三日



彼の世界には白いカラスなど存在しない。

そして私の世界には黒いカラスなど存在しない。

黒いカラスを私は見たことがないと彼に言うと、彼は豪快に笑いながらそれは嘘だと指さした。

彼の指し示す方向に顔を向けると、そこには一羽の白いカラスが枝に止まっているのが見えた。

私には白にしか見えないよ

俺には黒にしか見えない

話しはいつもここで平行線になる。

他のものの見え方は同じなのになぜかカラスの色だけが違う。

そしていつも喧嘩になる。

どうしていつもカラスの色だけでこんなに雰囲気の悪くなるくらい喧嘩をしなければならないのだろう。

この話題がでると三日くらいは二人とも口をきかなくなる。

周りからはまたカラスの色で喧嘩してると陰で噂されるのだ。


今度もまた周りからいつもの目線を浴びることになるのだろう。


たかが色のことで、と。


またあの二人か、と。


いい加減にしてほしいよね、と。


もういい大人なんだからさ、と。


聞き飽きた言葉が聞こえてくる。

いや、正しくは周りの思っている思考が流れてくる。

この苦痛は彼と私は共通で、だから私と彼はよく一緒にいるのだ。

カラスの件さえなければ、いつでも一緒にいれるくらい仲が良いというのに。

きっとこの色の相違は私と彼を一緒にいさせないために、神様がいたずらをしたのだろう。

すくなくとも私はそう思っている。

そして彼もそう思っていることが、私にはわかる。

彼にもきっと私の思考が流れているので、この思いは伝わっていると思う。

お互いにお互いの気持ちを知っているのに、どうしてカラスの色ごときで三日も口をきかないとは子供すぎではないだろうか。

しかし、私も彼も見えているものの色が違うのにそれを違う色だとは言えない。

なぜだかそこは二人とも頑なに色を譲らない。

彼は黒いカラスを私は白いカラスを見ている。

私と彼の世界はそこだけが違う。

そしてそれのせいで私たちは一緒にいることが出来ない。


神のいたずら。


余計ないたずら。


周りの囁く思考が流れてくる。


ガサガサとして嫌な感じだ。


数メートル先に彼が見えた。

彼も同じように顔をしかめている。

話しかけようかと悩んだが、直ぐに思い直して止めた。



私も彼もきっちり三日間、口をきかなかった。








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