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部外者


かぐや姫は月に自らの意思で戻る。

冥界に連れ去られた女神の娘は地上に戻りたいとすすり泣く。

お菓子の家に登場する兄妹は、家に帰る道しるべをなくしてそこに着く。

ハーメルンの子供たちはある種、催眠にかけられたように笛吹き男について行く。

一説では笛云々ではなく、子供たちは誘拐されたとされている。

遠すぎる過去のことなので真相はわからない。

今となってはおとぎ話の中にしか彼らはいない。

そのおとぎ話すら今は存在が危ぶまれている。

なぜなら人類はあらゆるものを捨てようとしているからだ。

文字、本、デジタルの中に保存されているもの全て。

歩んできた歴史、積み重ねられた知識。

全てを消し去ろうとしている。

もっといえば、己の存在さえ。

宇宙からヒトという負の存在をヒト自らが消そうとしているのは、とても奇妙なことだ。

外側のモノたちはヒトがその考えに至ることはないだろうと思っていた。

ヒトの作り出した物。

ロボットがその考えに辿り着きヒトを殲滅するのだろうと、そう思っていたのだ。




ヒトが自分でヒトを消すのは別にいいんだけどさー

せっかく生み出された本とか文明とか植物とかも消しちゃうっていうのはさー

どうなんだろうね

彼女が机の上に両腕をのせて物憂げに言う。

その目前にはサッカーボールくらいの大きさで地球が浮かび上がっている。

ところどころに矢印が伸びていて、先には四角いモニターに人々や街が映し出されていた。

まあ、彼等も彼等なりに考え抜いた結果だろう

尊重してあげなよ

……でもさあ

口をとがらせて拗ねる。

彼女はヒトの作る物語が大好きだったから、それが失われてしまうのが嫌なのだろう。

訂正。

大好きだった、ではなくて、今でも大好きだ。

ねー、なんとか持ってこられないかな

本を?

前にも話したと思うけど、無理だよ

僕等がいるのは外側で地球のそれを持って来ることはできない

じゃあ、盗み見てる時に書きう

駄目、法に触れる

ピシャリと言い放つと、いつものように腕の中に顔をうずめて唸り出した。

……頑張って内容を覚えることしかできない

頑張れ、と再度言う。

頭を軽く撫でるが、相変わらず唸っているだけで他の反応がない。

所詮僕等は部外者だ

地球に手を触れることも出来ない

わかってるわよ、そんなの……

目だけ腕から出して力なく言う。


右上に映し出されているモニターからは、そろそろ人類が終わる最終段階に入っている様子がうかがえた。





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