
宿題の問題
コンビニでこれからだらける為の品々を買って帰宅し、家の玄関を開けようとした時に何か嫌な予感がしたのは間違いではなかったようだ。
音をたてないようにゆっくりと開けて、閉める。
そしてまた、自分が帰宅したという事を悟られないようにゆっくりと、でも素早く靴を脱いだ。
ほんの数秒間に、居間の方から母親と妹たちが何やら言い争っている声が耳に届いた。
内容はわからないけれど巻き込まれたくない一心で、僕は二階にある自分の部屋に戻ろうと数メートル先の階段へ急ぐ。
が、移動しているうちに言い争いの内容が把握できたので、ちょっと気が咎めるが階段の途中まで登ってそこから話を聞いていくことにした。
はたから見たら盗み聞きということになりそうだな、なんて考える。
気が咎めている時点で盗み聞きか
声に出してみると不思議なことにその感覚は薄れたので、気にしないことにして耳を澄ませた。
だから、わたしは宿題なんておかしいって言ってるのよ!
なに馬鹿なこと言ってるの、明日から学校なんだからちゃんとやりなさい
おねーちゃん、もう諦めて一緒にやろうよぉ
ダメよ!
ここで折れたら、また来る日も来る日も宿題やらないといけなくなるのよ!
あんたもそんなの嫌でしょう!
それはそうだけどさぁ
下の妹はどうやら、もう母親と言い争いをしたくないらしく諦めモードに入っているようだ。
上の妹は、声から察するに引き下がるつもりは後一時間程なさそうである。
僕は、袋の中から炭酸飲料のボトルを取り出して口に含んだ。
これが例の宿題嫌々期かと頭の隅で考える。
あんたね、毎年毎年この時期に同じことを何度も言わせないでちょうだい
お母さんだって暇じゃないんですからね、学校の宿題くらいちゃんとやってちょうだい
暇じゃないんだったら毎年嫌って言わせないで、宿題なんてやらなくてもいいって言ってくれませんかお母さん?
だいたい、なんで休みの日まで宿題やらないといけないのよ
おねーちゃん、もう止めよってばぁ
僕が大学に進学して一人暮らしを始めてから、上の妹が宿題やりたくないと言い出したのが事の始まりである。
大型連休と夏、冬の休暇時期になるといつも宿題やらない宣言をしだして、母親と口論になるらしい。
両親から聞いてはいたけれど、現場に出くわすのは初めてだった。
そもそもさ、宿題って制度、おかしくない?
これ、お父さんに置き換えたら残業だよね?
しかも会社の仕事を家に持ち帰っての残業になるよね?
賃金発生しないサービス残業ってやつになるんじゃないのこれ?
お母さん、お父さんにサービス残業止めてって言ってなかった?
お父さんには止めてって言うのに、あたしたちには止めてって言わないのおかしくない?
上の妹の怒涛の畳みかけに、母親は少し怯んでいるのだろうか。
様子がうかがえないのが残念だが、声が聞こえてこないので言い返せないくらいに母親にとって痛いところということか。
母親の言葉を待つ。
晩御飯
先程とは違い抑揚のない静かな声だったので、これはまずいなと感じた。
晩御飯まで後二時間だから、それまでに終わらせてちょうだい
宿題が終わるまであなたたちに晩御飯は出しません
これほどまでにピシャリという音がピタリとはまる言葉も声もないだろう。
妹の負けだなあと思いつつ、僕は階段を上って自分の部屋へ戻る。
その最中で一階からは上の妹の横暴だと抗議が聞こえてきたので、恐らく夕食の時間は三時間後になりそうだと僕は頭の隅で考えていた。