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【白影荘の住人】煙夫人-1/3
105以外の各部屋に挨拶を終えてから何日か経った。
あの日、102の煙夫人によって105用の粗品までもひったくられ挨拶回りは終了した。
あれから僕は何度か煙夫人から取り返そうとしたけれど102号室の扉を叩くことが出来ず、三日後くらいに諦めて代わりに日持ちのするお菓子を購入しに行った。
我ながら平和的に解決した……と思う。
そう思わなければやってられなかったのだが、しかしあれから幾日経っても未だに105の住人に会えてはいなかった。
毎回中から機械音はするので誰かいるとは思うのだが、待っても出て来ないのですごすごと二階の住居へと帰っている。
よく考えれば扉の外からでも機械音がするのがわかるってことは、中はもっとすごい音だってことだよな。
そんな爆音の中に一体どんな人が住んでいるのか、見当もつかない。
そんなことを考えながら二階の共有部分に設置されている二層式の洗濯機の前に行く。
白影荘には室内にもベランダにも洗濯機置き場がない。
代わりに二階と一階の共有部にそれぞれ二層式の洗濯機が備え付けられているのだった。
「あ、ちょうど今終わったから次どうぞ」
在所さんが洗濯物を取り込みながら僕にそう笑いかける。
「ありがとうございます。そういえば、洗濯機が一階と二階にあるのってなんでなんですか?排水溝のこととか考えると、一階に二つあったほうがいいんじゃないですか?」
僕が疑問を口にすると、在所さんは苦笑いしながら教えてくれた。
「うん、アカネちゃんがね……、煙夫人と同じ階の洗濯機は嫌だってオーナーに言ったんだよ。あと、この洗濯機ももともとは一階にあったんだけど、アカネちゃん煙夫人もシューも好きじゃないみたいでね」
どっちかが使った洗濯機なんて使いたくない、年二回ある白影荘の集会でそう言い切ったそうだ。
それを聞いた煙夫人とシューが言葉で応報してその時の集会は大変だったなあと、在所さんは笑う。
「そういうわけで、一階と二階に洗濯機があるんだよ」
「……、あの、僕もたぶんクロガネさんに嫌われてると思うんですが使ってても大丈夫ですかね?」
「アカネちゃんが?君を?」
キョトンとした顔をして僕を見つめるが、それは一瞬のことで在所さんはいつものように余裕のある微笑みを浮かべて僕に言う。
「それはないよ。アカネちゃん、嫌なら嫌って本人に直訴しに行くから。来てないでしょ?アカネちゃん。それなら大丈夫だよ」
僕はまだ少し不安が残っていたが、在所さんの言うことを信じることにした。
在所さんは、それじゃあね、と205号室の自分の部屋に帰っていった。
僕は僕の洗濯物に取り掛かることにして、中にばんばん入れていく。
洗剤を入れ終わってスタートを押す。
水が洗濯槽に流れ込んでくるのを見届けて蓋を閉める。
ここの洗濯機を使うのは三度目だけど、水道に繋がれていないのにどうして水が出てくるのかは不思議でならなかった。
【煙夫人2/3へ続く】