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まず時間かかりすぎと言われる

ちょっと外で遊んでから帰宅するはずが、随分と時間が経ってしまっていた。

さっきまでまだ太陽が出ていたと思ったのに、今はもう月と星の時間になっている。

もう少しで家に着くけれど、同居人に帰宅時間が遅いと怒られるのが、なんとなく目に浮かぶ。

先週も同じことをしたのに、またやってしまったなと心の中で自分に言う。

そして同居人が起きていて何か言ってきたときのために、言い訳を考える。

とはいえ、言い訳を考えても口に出した途端に同居人からの執拗な口撃にあうことがわかる。

考えるだけ無駄なことだと知ってはいるが、考えずに帰宅すると後が恐ろしい。

どーすっかな……

小さく呟く。

しかし足は止まらない。

もっと遅く帰宅したほうがいいのかもしれないが、早く帰ってふかふかのベッドで横になりたい。

何か言ってきても無視をすればいい。

そうしよう、きっとそれがいい

ぶつぶつ喋りながら歩いていたので、すれ違った人に怪訝そうな顔をされた。




程なく、俺は家に辿り着いた。

出来れば起きていませんようにと願いつつ、玄関の鍵穴に慎重に鍵を差し込んだ。

なるべく音を出さないようにゆっくりと入れ、そして回す。

ガチャリと音が鳴ったが、いつもよりも小さくて控えめな音だった。

これならきっと気づかれないだろうと、安心して玄関を開ける。



ギギギギィィッ



心臓に悪いくらい、派手に音が鳴った。

そういえば玄関の扉が雨の日以外は軋んだ音を鳴らすということを忘れていた。

まずい、という言葉が脳裏に浮かぶ。

そして心臓が嫌に脈打ち、体中から一気に汗が噴き出してくる。

ここ数日間、ずっと雨が降っていたので玄関の音のことを失念してしまっていたのだ。

そしていまの音を聞きつけて、同居人が玄関まで秒速でやって来てしまった。

……、た、ただいま

おかえり、中途半端に開けてないでさっさと中に入れば?

平坦な声が逆に怖い。

俺は内側に入り、わざと玄関扉に体を向けて閉めた。

もちろん、鍵も閉めるしチェーンもかける。

しかし一向に振り返りたくない思いが強い。

一分以上玄関扉とにらめっこをしていると、同居人がさっさと手を洗って居間に来てと言い捨てて先に居間の方へと歩いていく音が聞こえた。

いつの間にか止めていた息を吐き出して呼吸を再開する。

同居人の言うように手を洗うために、洗面所へ急ぐ。


泡で出てくるタイプの薬用石鹼を両手と両手首に塗りたくる。


必要以上に時間をかけながら、今日のお説教は長くなりそうだと考えていた。



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