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かくれんぼ ㏌ 宇宙

ぼくたち兄妹星は、だだっ広い宇宙で暇を持て余していた。

兄妹って言ってはみるけど、気が付いたらとなりに居たってだけだから本当は兄妹じゃないのかもしれない。

でもそんなことは宇宙ではよくあることみたいだから、兄妹でもそうじゃなくてもどうでもいいことだった。

妹はお転婆で、よく他の星にちょっかいを出しては相手の癇癪を引き出しては、ぼくのもとへと笑って逃げ帰って来る。

前にベテルギウスの癇癪を引き出そうとしてたけど、さすがに危険だと周りの星からも止められていた。

ベテルギウスまで後10光年というところに妹が現れると、ぼくに星間ネットワークで連絡が入る。

その数時間後に妹が彗星便でぼくのもとへと送り返されて来るようになったのは、ここ最近の話だ。

おにーちゃーん、ひまぁーーー。

駄々っ子のように言うが暇なのは妹自身の引き起こしたことなので、ぼくにはどうしようもない。

妹が相手に癇癪を起させて遊びすぎたので、ぼくたちの付近には他の星がいなくなってしまったのである。

遊び相手、というよりからかう相手がいなくなってからというもの、妹はよく癇癪を起しそうになっている。

妹が癇癪を起すことくらいどうってことはないのだけれど、側に誰もいなくなるのは嫌だった。

んー、じゃあなにかして遊ぶ?

もちろん癇癪を起すこと以外で、とぼくは付け加える。

それならあたし、かくれんぼがしたい!

かくれんぼ?

うん!

あ、もちろんあれよ?

ベテルギウスには近づかないから大丈夫!

ぼくを安心させるためにそう言うと、妹はかくれんぼの範囲をどうするかと尋ねてきた。

そうだね……ここから半径15光年以内でいいんじゃないかな?

オッケー!

それじゃお兄ちゃんが鬼ね!

10秒後に探しにきてね~

どうしてぼくが鬼なのか聞く暇もなく妹は目の前から消えていた。

そもそも、それじゃの時点で駆け出すって……妹らしいというかなんというか。



10数えてから妹を探し始めて、どれくらい時間が経っただろう。

ぼくたちにとっては今が何時だとかはどうでもいいことだから、時間がわからない。

それでも、とても長いこと妹を探している気がする。

後、探していないところと言えばこの下の方なのだけど……この下にはブラックホールがあるから行きたくない。

ここからほんの少し下に移動するだけでぼくはブラックホールに吸い込まれて、ずっとブラックホールの中で過ごすことになってしまうだろう。

そんなのはいやだな、と口に出す。

その時、妹はブラックホールの中に隠れた可能性があることに気が付いた。

まさかとは思うけれど、あの妹なら大いにありえることだった。

癇癪を起してもいないのに、こんな消え方ってないじゃないか……

ぼくがポツリと呟いたとき、ブラックホールから僕めがけて何かがすごい勢いで噴射された。

うわっ!!

何かにぶつかって、それと一緒に後ろに飛んでいく。

何か、は妹だった。

もう聞いてよお兄ちゃん!

ひどいんだよ、ブラックホールったらあたしのこと美味しくないからって吐き出すんだもの!

美味しくないって失礼しちゃう!

ちょっと癇癪を起しかけているようだけど、そう言う妹は元気そうであった。

えーと……、大丈夫、なの?

うん、ちょっと軽くなったくらいでなんともないよ!

へへんと笑って見せる。

それよりお兄ちゃん、今度は鬼ごっこしよう!

私が鬼ね、10数えたらはじまりね!

え、ちょっと待

い~ち~に~ぃ

僕はまだまだブラックホールのことについて話したかったけれど、数え終わる前に逃げなければ。

とりあえずベガのところまで行こうと決めて、ぼくは妹から離れた。


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