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ブラックホールのつくりかた
ぼくたちの下の方では、いつも小さい癇癪が起きていた。
ぼくと隣の星の付き合いはとても長いものになるのだが、その隣の星が結構前から塞ぎ込んでいる。
理由は、ぼくたちがずっとずっと観察していた星が死んでしまったからだった。
星自身の癇癪じゃなくて内側に住んでいた生物によって、その星は死んでしまった。
あんなに青や白、茶色に黄色。
沢山の色があって綺麗だったあの星は、今は真っ黒けでところどころに炎の赤が見えている。
ぼくたちが好きだった青色も黄色も白色も、そこにはもうない。
どんなにぼくたちが目を凝らしたって、黒と赤しか見えはしないんだ。
あの星がそんなになってしまってから、ぼくの隣の星は一言も声を発しなくなってしまった。
前はあんなに沢山お話してたのに。
隣の星は塞ぎ込んでいくばかりで、このままでは小さい癇癪すら起こさないでじわじわと宇宙の塵となって消えてしまう。
ぼくは宇宙をふらふら漂って隣の星に逢うまでに、いくつもの星の癇癪や癇癪を起さずに消えていく星々を見てきた。
だからわかる。
このままだと、隣の星は消えてしまう。
せっかく友達になれて一緒に輝いたりして遊んでいたのに、放っておいてしまうと隣の星はひとりぽっちで消えていってしまう。
そうしたらぼくはまた、当てもなく癇癪すら起こさずふらふらと宇宙を漂うのだろうか。
隣の星に代わる星を探して漂うのだろうか。
もし、そんな星が見つかったとしても隣の星と同じように、一緒に輝いたりどこかの星を観察したりして笑いあうのだろうか。
そしてその後は、ぼくとその代わりの星が癇癪を起すまでずっと一緒にいるのかな。
なんてことを考えてたんだけどね
ぼく、きみの代わりの星なんていらないやって思ったのね
……
だってきみはきみだから、他の星がきみの代わりになれるわけないじゃないかって
そう思ったらね、もやもやしてたのがスッキリしたんだぁ
隣の星に一方的に話しかける。
隣の星はやっぱり声を出してくれないけれど、少し柔らかくなった気がする。
ぼくは、考えていたことを伝える。
ね、ぼくたち、ブラックホールになろうよ
そうしたらさ、いろんな星がぼくらの中に入ってきて面白いことになりそうじゃない?
……僕たちの大きさじゃ、ブラックホールなんかにはなれやしないよ
平坦な、のっぺりした声だったけれど、すごく久しぶりに隣の星の声を聞くことが出来た。
ぼくは嬉しくなって、ブラックホールになる方法を話す。
ぼくが宇宙を漂っていた時にね、面白いブラックホールが出来る瞬間を見たんだ
ちっちゃい癇癪がたくさん起こって、あたりにその星屑が無数にある状態でね、ぼくよりちょっとだけ大きい星が癇癪を起したんだ!
そしたらさ、その星の癇癪に引き寄せられるようにして星屑が集まってね、ブラックホールになったんだよ!
そうか、ブラックホールになるための材料がそろって……あ
気がついた?
隣の星が輝き始めた。
ぼくもつられて輝きだす。
ぼくたちにもその材料はそろってるんだよ
隣の星と逢ってからずっと続いていた、あの癇癪の音が聞こえなくなっていた。
ぼくたちはそろって下を見る。
そこには無数の星屑が浮遊していた。
ね、ぼく、きみと一緒なら癇癪を起すのだって怖くないよ
一度だけ普段より強く輝いて見せる。
僕も……君となら怖くないかな
隣の星も一度だけ強く輝く。
ぼくたちはブラックホールになるために、ぴたりとくっついて星屑の中へ降りて行った。