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ピアッサーチャレンジ

彼女が両耳に小さな輝く石をつけて登校してきたので、私は驚きの眼差しを向けるとともに短い悲鳴にも似た声を出した。

え、どしたのそれ……

ふふっ、実はGW中にピアッサー使って開けたんだ

完全に開くっていうか安定するまでは、長くて二ヵ月かかることもあるんだってさ

軽く耳たぶのそれに触れて彼女は、にこにこと説明してくれた。

今つけてるのはファーストピアスって言うんだけど、これが外れたらもっと可愛いピアスつけるんだ~

声だけで彼女のうわついている様子がわかる。

私は正直、GW中にピアスを開けるという彼女の行動力というか怖いものなさというか、そういうものに圧倒されていた。

自分では絶対に開けようなんて思わないだろうし、開けたとしてもそんなに笑顔で友人には話せないような気がする。

彼女の考えも行動も私の想像の範囲外にあって、とても理解が出来そうにないことを強く感じた瞬間だった。

ま、こんなこと言ってるけど結構このファーストピアスも気に入ってるんだけどね

ね、見て見て、ハートの形にしたんだよ

彼女が右耳に髪をかけて私の方に近づける。

なるほど、確かによく見るとそれはハートの形をしていた。

彼女らしく、その石の色もピンクにしたようだ。

似合ってるよ、すごく可愛い

えへへ、でしょ~

あっ、と小さく声を出したかと思うと彼女は両耳にかけていた髪を戻して、ピアスのついている両耳を隠す。

はーい、ホームルーム始めますよー、全員席について静かにしてくださーい

先生の声に反応して各々自分の席に戻っていく。

休み明けの学校生活の始まりだった。




うええ……休み明けの学校ってさ結構きついよね

確かに、いつもよりも疲れちゃうよね

三時過ぎに学校から解放された私たちは、帰りの道でそんなことを話していた。

あ、そうだ

実はさ、ピアッサーがひとつ残ってるんだけどアンタ使ってみる?

え……なんで余ってるの

少し嫌な予感を覚えつつ訊いてみる。

失敗したとき用にみっつ買っておいたんだよね

結果としては成功したからひとつ余っちゃったってわけ

彼女は空を見ながら、けろりとそう答えた。

で、どう、開けてみる?

えっと……

少し考えるそぶりをして見せたが、答えはNOと決まっている。

私は、どう断ろうかと考えているのだ。

そもそもビアスとは、古代に奴隷や身分の低いものの証として使われていたものではなかっただろうか。

いや、そんなことは現代において関係はない。

ここは正直に痛いのが嫌だと話すべきだろうと思い、口に出してそう伝えたのだが……。

え、ピアッサーそんなに痛くないよ?

想定外の答えが返って来た。

痛覚は人それぞれなので彼女が痛くなかったからといって、私が痛みを感じないということにはならない。

でも彼女にはそれが理解できないようだった。

私、病院の注射も痛くて怖いから……自分で耳に穴をあけるのはちょっと……痛くないとしても無理かな

ふうん、アンタって意外と臆病なのね

彼女は興味なさげにそう言うと、黙り込んでしまった。

機嫌を損ねてしまったようで、少しバツが悪くなった私は躊躇いつつ告げる。

ね、片方の耳にもうひとつピアスつけてみたらどうかな

アシンメトリーって言うんだっけ?

左右で違うピアスをつけても、きっと似合うと思うな

苦し紛れの言葉ではあったけれど、彼女には効果がかなりあったようだ。

聞いた瞬時に目をキラキラさせ、そうね、そうするわと声を弾ませたのだった。

彼女が機嫌を直したことに安堵しながら、私は自分がピアスを開けることを想像してみる。

しかしそれは、結局開けることが出来ずにピアッサーをテーブルの上に置くところで終わったのであった。


チキンな私は想像の中でもチキンだった。



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