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ブロックカレンダー


私の妹はこまごまとした物を集めるのが好きだ。

気に入ったガシャポンがあれば、全て手に入れるまで何回でも回す。

また、気に入った雑貨があれば金欠であろうが必ず手に入れる。

親は末っ子に甘いと言うけれど、本当にそうなんだなぁと妹がねだっているのを見る度に毎回思う。

別に好きな物を集めたくなる、購入したくなる気持ちは私にだってわかるので、その点にたいして不満はない。

ただし、それは妹と同じ部屋でなければ、の話である。

妹の雑貨が部屋のスペースを圧迫しているのを見ると、どうにもいらだちが芽生えてくる。

当たり前だが、この場所は私の部屋でもあるのだ。

前に一度、親に一人部屋が欲しいと相談したことがあるが曖昧な返事をされて誤魔化されてしまった。

以来、私は親に言っても無駄なのだと諦め、さっさと学校を卒業して一人暮らしがしたいと思うようになる。

甘やかしたければ好きなだけ妹を甘やかし続ければいいのだ。

私はそんな茶番は見飽きたし、妹と同じ部屋で過ごすのだってもう飽きた。

友達は呼びづらいし、勉強だって気が散ってしまう。

妹の机と私の机を見比べれば、性格が反対なことくらい一目でわかるだろうというのに。

むしろ親はどうしてこんなにも正反対の姉妹を同じ部屋にぎゅうぎゅうと押し込めておくのだろう。

仮にどちらかが我慢すればいいと考えているのなら、我慢する方はきっと私なのだ。

好きで先に生まれたわけでもないのに、と心の中で悪態をつく。

そんな考えを振り払って、私は学校から出された大量の宿題に手を付け始めた。








宿題がひと段落したところで、部屋の中を改めて見渡す。

相変わらずごちゃごちゃしていて、自然とため息が出てくる。

どうしてこんなこまごまとした物があちこちに置かれているのか。

隅っこにある物なんて軽く埃をかぶっているではないか。

掃除もしない妹にまたしても怒りが芽生えてくる。

ふと妹の机に視線を移す。

先々週くらいにウキウキと見せびらかしてきたブロックカレンダーに目を止める。

白いピアノを模したブロックカレンダーで、ネットでもなかなか見ないデザインのものだ。

確かあれも親におねだりをして購入費を手に入れた物だったはずだが。


……先週の水曜日で日付止まってるじゃん


妹の飽き性がこんなところで発揮されているとは、なんとも言い難い。

あんなに見せびらかしておいて、一週間程度で日付を変えなくなるとか一体どんな神経をしているのだろうか。

先程まであった怒りの感情もすっかりと消えてしまい、なんだか情けないという感情に変わってしまっていた。

そしてそういえば、と妹が年明け早々に見せびらかしてきた手帳のことを思い出す。

妹が好きそうな配色で小動物のイラストがふんだんに描かれていたあの手帳はちゃんと使っているのだろうか、と。

きっと使ってないんだろうなぁ……はぁ

我が妹ながら本当に情けない。


あの子、こんなんで将来大丈夫なのかな


軽く額に手を当てて妹の将来を思い描いてみたが、なにも浮かんでこなかった。

妹の将来に少し不安を覚えつつ、私はブロックカレンダーの日付を今日に動かした。

カタンと控えめな音が鳴る。

このブロックカレンダーを私が動かしたように、妹にも妹を動かしてくれる存在が現れればいいのにと、なんとなくそう思った。


玄関のドアが開く音が聞こえ、間もなく妹の元気なただいまが家に響いた。


私は宿題の続きをするために自分の机へ戻る。

部屋の扉が大きく開かれて妹が飛び込んでくる。


おねーちゃん見て見て!

駅前の雑貨屋さんにブロックカレンダーの黒ピアノバージョンがあって買っちゃった~!

かわいいでしょ~!


またひとつ、妹の物が増えた瞬間だった。









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