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溶け出す頃が美味しい
あいつは暑さにも寒さにもめっぽう弱い。
にもかかわらず、あいつは自分の体調管理が出来ないやつだった。
俺は暑すぎる我が家に閉じこもっていることに耐えかねて、ジーンズにシャツというかなりラフな格好で外を歩いていた。
風が吹くが生ぬるくてやっていられない。
暑さから逃げたというのに、歩くだけで体中から汗がにじみ出てくる。
それでも風が吹くだけ我が家よりはマシと思い込んで、近くの公園のベンチで休んでいた。
ジッとしているだけでも体力が奪われていくことに気が付き、軽く舌打ちをしてしまう。
こんなに暑くてあの馬鹿は大丈夫だろうかと、急にあいつのことを思い出す。
俺はあいつの様子を見に行くことにして、公園から出て行った。
決して、あいつの家で涼んでやろうとか思っているわけではない。
あいつが暑さで死にかけていないか見に行って、死にかけていたら看病してやろうと思っているだけだ。
手ぶらで行くのもなにかと考えて、あいつの家付近にあるコンビニに寄る。
こってり系のアイスクリームとさっぱり系の氷菓を購入して、なるべく溶けてしまわないよう早歩きであいつの家へと向かう。
オートロックではない家に住んでいるので、直接あいつの家の玄関チャイムを鳴らす。
出てくるまで鳴らし続けようと思ったのだが、三回目で飽きたので取手に手をかけて開けてみる。
案の定鍵はかかっていなかったので、そのまま中に入って行く。
居間の扉を開けた時、床に突っ伏しているあいつが居た。
アイスの入っている袋をそのまま、そっとあいつの首にくっつける。
ビクッと体が反応したので、どうやらまだ死んではいないらしい。
部屋の中にあるであろうエアコンのリモコンを目視で探しだして、拾い上げスイッチを入れてやるとそれが音を出し始めた。
その辺にあった雑誌をうちわ代わりにして、倒れているあいつを扇ぐ。
起きろー、生きてるなら起きろー
やる気のない声をかけてやると、小さなうめき声が聞こえた。
きっとその内に目を覚ますだろうと思い、そのまま三分程扇ぎ続ける。
……ん、いつの間にまた不法侵入を
様子見に来てやったのにその言い草はないだろう、つーか家の鍵かける習慣をそろそろつけろよ
雑誌を元の場所に戻しながら、何回言っても鍵をかけないあいつに目を向ける。
んん、ぼくはいつ誰が入って来ても恥ずかしくない生活をしているからね
ついさっきまで床に倒れて死にかけてたやつがよく言えるな
十分恥ずかしいし、鍵をかけるかけないのはそういう問題ではないと付け足しおく。
んー、何でこう気温って急に上昇するのかなぁ……まいっちゃうよね
俺は気温が上昇しても直ぐにエアコンつけないお前に参ってるよ
なんだよぉ、きみだってあれだろう?
ぼくの様子見に来てついでに涼んでいこうって魂胆だろ、きみの家のエアコンが壊れてるって知ってるんだからね
俺はあいつの言葉が聞こえなかったことにして、袋の中から購入したアイスをふたつ取り出す。
アイス買ってきたから溶けないうちに食おうぜ
ほら、どっちがいい
んー、じゃ、こっち
あいつはやっぱり、こってり系のアイスクリームを選んだ。