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トゥレチェリィ

ぼくたちは今から、千年分の予定を組み立てなければならなかった。

前に話し合いをして予定を立てたのはずっと昔のことで、その時はまた他の四人と顔を合わせることになるとは思っていなかった。

それはぼく以外の四人も同じ考えだったようで、嫌々と顔を合わせているという空気が場を満たしている。

それもそのはず。

前回作った予定では、あの星の命は尽きて滅亡しているはずだったのだから。

どこで予定が狂ったんだ?

一番最初の二百年を担当する漆黒の彼が言う。

さあ、もともと狂っていた予定をさらに狂わせるようなことはボクはしないよ

次の二百年を担当する紅色の主が、漆黒の彼に答えた。

三番目の紫の君は何も言わない。

五番目の白銀の彼女は、つまらなそうに欠伸をしている。

四番目のぼくも黙って首を横に振るだけだった。

全員心当たりはなしってことか……だとすると

星が予定を書き換えたってことでしょうね

紫の君は静かに、でも他の四人を突き放すようにそう言って、自分の担当する箇所の予定を記入し始めた。

おい、まだ話は終わってないだろ

もともと始まってさえもなかったし、いいんじゃないの?

やっぱりつまらなさそうに白銀の彼女が言うと、漆黒の彼は怒って彼女に掴みかかろうとした。

それをぼくと紅色の主で止める。

まあまあ……漆黒が怒るのも無理はないけどさ、もうそれぞれで星を終わらせる予定を組んでしまえばいいんじゃないかな?

うん……、ぼくも紅色の主の意見に賛成

漆黒の彼は短く舌打ちをして自分の席に戻る。

そしてそれぞれが星を終わらせるための予定を記入していく。

場には重苦しい空気と共に、文字を書く音が重なったり途切れたりしていた。


そして全員が記入し終わると、順番にその予定を星の心臓に繋がる炉に放り込んでいった。

炉が橙色に光る。

予定が受け付けられたことを確認して、ぼくたちは場からそれぞれの場所へ戻ろうと場から離れた。

流石にまた狂わされる、なんてことはないわよね

そしたらまた予定を記入すればいいさ、滅びるまで何度でも

紫の君の不安そうな言葉に、不穏な言葉で紅色の主は返した。

漆黒の彼はすでにぼくたちよりも早くに消えてしまって、彼の考えを聞くことは出来なかった。

三回目が起こったら、あたしたち自身の手で星を滅ぼすことになるだけでしょ

ま、そんなことにならないことを祈ってるけど

白銀の彼女はまたひとつ欠伸をすると、そそくさと消えてしまった。

紫の君も紅色の主も、それぞれ深く頷くと消えてしまう。


一人になったぼくは、体を翻して場へと戻る。

ぼくの分の予定を書き換えて、炉に放り投げ橙色に光るのを確認して去った。



ぼくの書き換えた予定は、何も書かれていないまっさらなものだ。

最後から二番目の二百年分、あの星の予定は何もない。

星の運命は星自身に決めさせるのがいいと、ぼくは考えている。

滅びたいなら滅べばいい。

でもそうでないなら、空白の二百年で軌道修正してみせればいい。

千年の内のたった二百年、されど二百年だ。

あの星がどう動くのか、ぼくは見守るだけである。

ただ、このことがバレたらぼくは四人に抹殺されるだろう。

バレそうになったら、この身一つで逃亡するから問題はない。

でもその場合、きっとあの星の最後は見れない。

それは少し残念だなと思う。






透明の某、聞こえていますか?

名前を呼ばれたので顔を上げると、給仕係が茶葉の入った筒を両手に持って首をかしげていた。

今日はどちらにしますか?

あぁ、それじゃあ……ぼくは右の玉露にするよ

かしこまりました、お茶請けはいつものでよろしいでしょうか?

ぼくが短く頷くと、給仕係はお茶の用意をしに下がった。


手元に顔を戻す。


そこには、別の星の予定を決めるための会議の時間が記されていた。





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