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夜を盗む者について
夜盗。
古くは夜に家の中に忍び入りモノを盗む者のことをそう呼んでいた。
そういう者達は今では泥棒と呼ばれているそうだ。
昼も夜も関係ない。
他人の家に忍び込んで盗む者。
たまに自宅の中にも泥棒がいるとされているが、まあそれについて今は関係のない話だ。
話を戻そう。
夜盗。
この言葉の現在の意味についてだ。
これは、文字通りの意味に変わった。
『夜』を『盗む』力を持つ者をそう呼んでいる。
何世紀か前に不思議な力を持つ者たちが現れ始め、その一部に夜を盗む者がいた。
夜盗によって、この星から夜が消えたことがある。
その時の記録がほんの少しだけ残っているが、どれもありきたりのものだったのでここには記さない。
話を戻すが、星から夜が消えたのは数か月だけだった。
夜を盗む者がいるように、昼を盗む者も存在していたから。
昼を盗む者がいたおかげで夜が星に戻ってきた。
だが今度は昼が消えた。
その時の記録も少し残っている。
陽の光はなくなり星々の光が空に満ちて地上に降り注ぐ。
降り注ぐが地上には人工の光が満ちているので、人々が星の光を見ることはない。
人々は夜が消えた時よりも大胆になったと記されているが、細かいことは省こう。
昼が星から消えたのも数カ月だけのことだった。
また夜盗が現れたから。
しかし今度の夜盗は、半分だけしか盗んでいかなかった。
昼を半分残していった。
夜盗は昼も夜も星には必要だと思い至ったようで、闇雲に夜を盗むのを止めたようだ。
夜盗はそう考えたが、昼を盗む者はそう考えなかった。
彼等は度々昼を盗み、星から光を消し去る。
暗闇の中で見えるものが余程気に入ったらしい。
昼が盗まれるたび、夜盗が現れてそれを戻す。
そういったことがずっと続いている。
多くの者達は夜盗のことを嫌っているが、光がなくなる方が危険だということに気がついている者達もいる。
星の光や人工の光だけでは動植物は育たない。
どこかの神話にもあるように、光が消えたら羽目を外す者が増えるのだ。
夜盗はそれを知っている。
だから夜盗は光を戻すために夜を盗む。
多くの者に嫌われようがそれが必要だから。
現在、この星は光が少なくなっている。
昼が盗まれているのだ。
このままいくと後数年で光が消えてしまうだろう。
夜盗が必要だ。
でも彼等は、この星の人々に愛想をつかしてしまったのかもしれない。
そうでなければ光だけが消えていくなんてことには、なっていないのだから。
光が消えてしまう前に夜盗を見つけなければならない。
この星には夜盗が必要だ。
暗闇だけの世界なんて必要ない。
どうか、これを読んだ者がいるならば、夜盗を探し出してほしい。
きっとこれから先も必要になるだろうから。