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夜明け待ち

ひどい風の音がして、彼女は目を覚ました。

枕もとの電子時計のライトを付けて確認すると午前四時だった。

起床するには早すぎる時間に彼女は落胆し、再度布団にもぐりこむ。

しかし風が窓に当たる音や、家の周りの木々があおられる音に耐え切れず、彼女はしぶしぶ布団から這い出てきた。

カーテンを開けて外を見ても、まだ闇が広がっているばかりで太陽の光などはなかった。

電気を付けようと壁のスイッチに手をかけたが、国の方針で午後十時から午前六時まで電気の供給が断たれていることを思い出す。

居間にある雑貨を無造作に入れているコンテナから、石油ランプとマッチを引っ張り出して机に置く。

シュッとマッチを擦り、その火をランプの芯に移してからマッチの火を吹き消す。

一連の動作には一分もかからなかった。

石油ランプの明かりを調節しながら彼女は思う。

大昔の石油ランプを使っているだなんて二世紀前の人が知ったら驚くだろうな、と。

ゆらゆらと揺れる火を見つめ、二世紀前だったらと彼女は空想し始める。

電気は有限のものではなくて、どんな時間でも自由に使えた。

遅くまで起きていても暖かい飲み物や、冷たい飲み物、冷蔵庫や冷凍庫に常備している食べ物を食べることが出来る。

そもそも家庭の冷蔵庫や電化製品は国の管理下にある今とは違うのだから、当然のことだ。

とはいえ、午後十時から午前六時まで電気の供給が断たれていても、冷蔵庫や冷凍庫の中の物が腐らないのはその管理のおかげではあるけれど。

好きな時間に好きなものを食べられる時代は、なんて自由で良い時代だったのだろう。

現代を生きる者にはとうてい想像の及ばない、そう、いうなれば黄金時代だ。

どうしてその黄金時代が消え去ってしまったのかは明白で、結局のところ人類はエネルギー問題を解決できなかった。

ただそれだけのことだった。

また、この国には関係なかったけれど、世界的に増え続ける人口問題や食糧問題もその解決できなかった問題に含まれている。

二世紀前に比べるとどうしょうもない現代だけど、それでも生きているだけましなのだろうか。

膝に頭を押し付けて、深く呼吸をする。

外では風がまだ強く吹いているようで、ガタガタ、ザワザワと音が鳴りやまない。

彼女はまた前時代のことを考える。

産まれた時に生体チップを埋め込まれない時代、人間が個々に自由を謳歌する時代。

国が電気や電化製品だけじゃなくて人間も管理し始める前の時代というものも、現代を生きる彼女には想像が出来なかった。

彼女の左腕に埋め込まれている生体チップが淡く光りだす。

危険思考を察知して、それを国のデータ倉庫に送っているのだ。

石油ランプなんてものを使っていながら、現代のテクノロジーを目の当たりにしている。


彼女は自嘲的な笑みを浮かべながら、早く風が止み、太陽が昇って電気が使えるようになるのを待っていた。




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