ユズリ
青い目を持って生まれてきた彼は、僕たちの土地で迫害を受けていた。
それでも彼がこの土地から出て行かなかったのは、この土地が彼の故郷だったことと彼女がこの土地を気に入っていたのが理由だろう。
青い目の彼は今でこそ、一部の人たちを除いてそこまで迫害を受けてはいない。
幼少期の彼は体もまだ小さく、あらゆることにたいして防衛することが出来なかった。
だから何をされても、ただただ耐えるばかりだったのだ。
それは体の大きくなった中高でも同じだったが、その頃に彼に手を出すものは大抵小学から彼を執拗に追いかけまわしていた人たちだけだった。
そんな彼は別の地域の大学に進学し、そこで彼女に出逢い、卒業後彼女と共にこの土地に戻って来た。
最初、彼が戻ってきたことを知った人たちがまた昔のように彼をからかうため、わざわざ彼の家まで訪ねてきた。
しかしそこで、その人たちは訊ねなければよかったと思うことになる。
彼は彼女と同棲をしており、そこに旧友たる人が訪ねてきたことになるのだが、その人たちの彼に対する態度や言葉の節々から彼女は何かを感じ取り静かに激怒していた。
そして今後二度と家を訪ねてくることがないように強く釘を刺して、その人たちを追い出したのだ。
それを彼女の隣で所在なさげに見守っていた彼が、玄関の扉と鍵をピシャリと閉めた時を見計らってどうして追い出したのかと訊いた。
すると彼女はカラリと何事もなかったかのように彼に言う。
だって私の大切な人にたいして、酷いことばかり言うんだもの
ここは私たちの家であってその片方が嫌な思いを抱くなら、即刻お帰りいただくのは当然でしょう?
それに、と彼女は続けて言う。
あなたの瞳のこと気持ち悪いって言ったじゃない?
私はあなたの瞳は世界一綺麗だと思っているから
私からするとね、あの人たちすごく失礼なのよ
ちょっとプリプリしながら彼女は台所へ向かい食器を洗い始めた。
その時、彼は思ったのだ。
自分はこの人と一緒にいたい、と。
……それが、お母さんと結婚しようと思った一番のきっかけなのかなーって思うよ
へえ、お父さんからそういうこと訊くの初めてかも
そりゃあ、聞かせてって言われてなかったからね
なにそれ、じゃあ僕が訊かなかったらずっと言わないつもりだったの?
まあ、そうだね
声のない笑みを浮かべ、父はビールを口にした。
その隣で僕は、母が昼間に作ってくれていた麦茶を口にする。
コップの中の茶色い水面には、僕の大きな母譲りの目が映っていた。
麦茶の水面からはわからないが、僕の瞳の色は父と同じ青い色だった。