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夢介入


カチカチカチと規則正しい音が部屋に響いている。

なんてことはない、ただの壁掛けアナログ時計の音だ。

と思ったのだが、この部屋に壁掛けの時計はない。

では何の音か。

部屋を隅々まで見て確認してみよう。

まず、この部屋には二人の人がいる。

一人は大きくて丸いビーズソファに腰を沈めて分厚い本を読んでいるようだ。

それからもう一人はダイニングテーブルに広げてある書類をじっと眺めている。

この二人からはどうやってもカチカチカチという音はでてこないだろう。

電化製品はどうだろう。

冷蔵庫、電気湯沸かし器、電子レンジにトースター。

大きなテレビ、空気清浄機、エアコン、デジタルの置時計、この部屋にはないが洗濯機。

しかしそのどれも、カチカチカチという音を出してはいない。

ジジジ、ジーィィ……そういう音しか出していない。

他に音を出しそうなものはこの部屋には見当たらない。

では隣の部屋の音なのかと考えるが、ここは角部屋で隣は最近引っ越していった後である。


カチカチカチ。


それでもずっと音は鳴り続ける。


カチカチカチ。


カチカチカチ。


カチカチカチ。


カチカチカチ。


カチカチカチ。


カチカチカチ。


カチカチカ……



不意に音が消える。


何事だろう、と目を開く。

彼女の不機嫌そうな顔が飛び込んでくる。


ねー、一体いつまで眠ってるわけ?

しかもこの意味わからないアラーム音、なんなのよ……

怖すぎて止めたからね

もう、さっさと起きて!


バシンと肩を叩かれる。

むぅ……

起き上がるのが億劫だが、横になったままだと彼女が更に怒るのだろう。

のっそりと体を起こす。

大きな欠伸をひとつしたら、彼女が鋭い目でこちらを射抜く。


もう、いいかげんちゃんと起きてよ

っていうかまずアラーム音を変えてよね

あんなんじゃ絶対起きれないでしょ

夢見も悪くなりそうだし


彼女はそう言い捨てて部屋から去っていった。

ぼーっとした頭で考える。


あぁ、さっきのは夢か……


目を擦りながらベットから降りる。

先程見ていた夢を思い出す。

カチカチカチという音が鳴り続けているよくわからない夢だった。

音の発生源を探しても見つからなくてなんでだろうかと首をひねっていたっけ。


音の発生源は見つからないわけだよ


夢の中には存在しなかった携帯電話から鳴っていたのだから。

もう一度だけ大きな欠伸をしたとき携帯が鳴り、体がビクリと飛び跳ねる。

カチカチカチ、と。

彼女はアラームを止めたと言ったが、ちゃんと止めてはいなかったようだ。


スヌーズ機能……心臓に悪いな


そっと携帯に手を伸ばし、今度はちゃんとアラームを止める。


息を吐いて洗面所へ向かいながら彼女の言うように、あのアラーム音は変えた方がいいなと考えていた。







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