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きらきら星の眠り
こどもたち、みーんな眠っちゃったね
僕のとなりの星が言う。
まあ、あの星ではもう真夜中だからね、仕方ないさ。
僕と僕のとなりにいる星は、地球、という自分以外の生命のいる星の夜をいつも観測している。
すごく遠くにある星なんだけど僕たちは目がとてもいいから、地球の見えている部分であればなんだって見える。
今日はいつも夜泣きしないあの子が泣いているなー、とかあの人はいつも真夜中に散歩しているな、とか。
地球の人たちのこと個人個人、識別が出来るくらいには目がいいんだ。
あーあ、こどもたちはみーんな眠っちゃったけど、やっぱり彼等は起きてるみたいだね
そうみたいだね、でも彼等は今日もベテルギウスに夢中だろう?
うん、でもさ、ベテルギウスって結構まえにすんごい癇癪起こしてなかったっけ?
となりの星の言うように、ベテルギウスは結構前にひどい癇癪を起している。
地球ほどではないにしても、そこそこ遠くにいた僕たちのところまで、衝撃が伝わってきたほどだもの。
小さな癇癪なら今だって僕たちの近くでも起きている。
でもベテルギウスみたいに大きなやつの、大きな癇癪はそうそう起こることじゃない。
ベテルギウス、眠かったのかなー
もしかしたらそうかもしれないね……もともと眠りたがりのやつだったもの。
じゃあ今ごろ、ゆっくり眠れてるといいねー
となりの星がのんびりと言う。
僕も、そうだねと言う。
実際のところ、もう宇宙にベテルギウスはいない。
ベテルギウスは眠ってしまったから。
でも彼等はそれを知らない。
もしかしたら彼等はそれを知るためにベテルギウスを観ているのかもしれないな、と僕は思った。
あ、もうすぐ太陽が出てくるよ
そんなに長く話していたつもりはないのだけれど、僕たちの感じている時間は地球よりも早いから、これもいつものことさ。
じゃあちょっとだけ休んで、裏側のこどもたちのために、また輝こう。
うん、そうだね、またすぐあとでね
となりの星は軽くそう言って、ほんのすこしだけ僕からはなれた。
まあ僕たちはいつも同じ光度で輝いているから、また輝くっていうのはなんだかおかしな話だなあと毎回思う。
地球側から僕たちが見えなくなってしまうのは、太陽、あれがあまりにも彼等に近くて、すんごく光ってるものだから、遠くの僕たちは陰ってしまうんだ。
それに僕たちの側からも太陽が出てきた面、表側の地球は、とても見えにくいんだ。
だから僕たちはいつも、地球の夜の側、裏側を観測している。
僕たちが裏側を観測するのは、こどもたちがよく見えるってことも理由のひとつではあるんだけど、本当はね。
僕たちを見つけてくれるのは、いつだってこどもたちだから裏側を観測しているんだ。
僕たちは、こどもたちが夜の空を見上げてくれれば、それでいい。
こどもたちは彼等と違って、星をひとつひとつ丁寧に観るってことをしないから。
だから僕たちは、こどもたちに見つけてもらえる。
僕たちは星だから。
だれかに見つけてもらわないと、輝いていても意味がないんだ。
ベテルギウスみたいに大きいやつは、この見つけてもらえるっていうしあわせを感じにくいみたいで。
だからベテルギウスは癇癪を起して眠りについちゃった。
でも僕たちは違う。
見つけてほしいから観測するし、輝き続ける。
んー、そろそろ輝く?
となりの星が僕に近づいてくる。
そうだね、そろそろ輝こうか。
よーし、はりきっちゃうよー
それ、さっきも言っていたよ
そうだっけ?
僕たちは、くすくすとささやくように笑う。
少し下の方では、小さな癇癪がいくつも起こっている。
地球に夜が来た。
となり合わせにいる僕たちには、まだ地球での名前はない。
僕たちは地球のだれかに見つけてもらうため、今日もまた輝くのだ。