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飾り付けが好き
仕事納めが12月25日になるなんて何年ぶりだろう。
そもそも仕事納めの日をいちいち覚えていたり、考えたりすることはないのだけれど。
とりあえず今年の仕事はもう終わりで、後は家に帰って家族とゆっくり過ごすだけ。
そう思って帰宅したのだが、リビングに入ったとたん何やら不穏な空気が満ちているのはなぜなのか。
妻が娘の前に仁王立ちしている。
今日くらいそういうの勘弁してくれよ、と心の中でぼやく。
ただいまー、っとなにかあったの?
おかえりなさい
ぱぱ~
娘が妻を避けつつ駆け寄ってきて足にしがみつく。
妻はその様子を見てまだお話し終わってないでしょ、と娘を咎める。
はは……どうしたの
これ、見て
妻の指さす方へ視線を向けると、そこにはいつだったかどこかで購入した死んだ珊瑚のオブジェがあった。
ただし、クリスマス風に飾られている。
原因はこれか、と納得してしていると妻が言う。
これ、高価なものなのなに本当なんでこういうことするの?
そもそも高いところに置いてあるんだから、飾りつけしてる最中に床に落ちたらケガするでしょう
……だって
だってじゃありません!
まぁまぁ、理由があったんじゃないの?
まだ四歳の子供に理由なんてあるわけないでしょ!
おもしろそうだったとか、綺麗だったとかそんなところでしょう
妻は一度怒ると周りが見えなくなる。
四歳とはいっても娘にも娘なりの考えがあったのだと思うのだが、今はそこが見えていないようだ。
しゃがんで娘と目線を合わせ、どうしてあんなことしちゃったの、と聞く。
……さんごがツリーににてたから、かざりつけてあげたかったの
そっか、でもねママが言うように高いところにあるからもうしちゃだめだよ
落ちたらケガしていたいいたいだからね
でも……
まだ何か言いたそうな娘にかける言葉がみつからない。
たぶん娘はクリスマスツリーを出して飾り付けたとき、とても楽しそうにしていたし妻も上手だと褒めていた。
きっと珊瑚を飾り付けたのも、あのときのことを覚えていたからなのかもしれない。
娘は俯いていて、妻や私が何かを言ったらぐずり出すような雰囲気が読み取れた。
……そうだ、ちょっと待ってて
私は自分の部屋に向かい物置同然となっているクローゼットから、昔使っていた水槽と余っているこまごまとした物を手に持ちリビングに戻った。
ちょっと……なにそれ、まだ持ってたの?
うん、なかなか捨てきれなくてね……
娘は不思議そうに私と妻と水槽を交互に見つめている。
さ、じゃあ飾り付けようか
え、ちょっと今から?
もうすぐご飯よ?
いいじゃないか、少しくらい
……そうね、あたしも少し頭を冷やしたいから、いいかもね
食事が出来たら呼ぶわね
うん、ありがとう
妻は大きく息を漏らしてキッチンへと消えていった。
残された私は何をするのかわかっていない娘と共に水槽をクリスマス風に飾り付け始める。
食事の準備が出来た頃には八割ほど飾り付け終わっていて、娘の機嫌も妻の機嫌も戻っていた。
次の年から娘はクリスマス時期になると水槽を飾り付け始めるようになり、その内に水も入れてアクアリウムとして我が家のインテリアのひとつとなっていくのはまた別の話だ。