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K ノート

旅人を知らない者のために、このノートを残しておく。

 
【旅人の起源について】

諸説あるが旅人については、世界が沈み始める前に発生したのは確実と言われている。

地上から引き揚げてきたと言われている、宗教シンボルの神殿で旅人について書かれている本が見つかっているからだ。

本の年代を機械で測定してみると、おおよそ千年前の物だったので世界が沈んだと言われている四百年前よりも前というわけである。

空の下、今はほとんど陸地がない荒れた海ばかりの世界に陸地が存在していた頃から旅人はいたということだ。

ただ、この旅人がどのようにして世界に現れたか、そしてそのまま職業として定着したのかはまだまだ謎な部分である。


【旅人の役割について】

旅人は世界に四季を連れてくる者である。

正確に言うと四季を連れてくるというよりは、暴走した精霊たちを鎮めて世界を通常の状態に戻すというほうが正しい。

精霊を鎮めるという特殊な技術については、現在は旅人の養成所で身につけることが出来るが向き不向きはあるようで、それにより旅人になれるか否かが決まると言われている。

しかしこれは今現在の話であって、遥か昔の旅人の役割は違ったものである可能性が高い。

四季の変動、精霊の暴走について確認されている記述はいくつかあるのだが、それが最初に出現したと思われるのは全て七百二十年から八百年前頃に集中して記されていた。

現在の旅人の役割は、恐らく四季の変動と精霊の暴走が関係している可能性が高く、その前の役割について記されているものは少ない。

ある本には、こう記されている。

『旅人は精霊と人々を繋ぐ触媒のような存在であり、その言葉を聞き人々は天候をも支配した』

上記から読み取れるのは、精霊の言葉を旅人が人々に伝えていたということである。

それと同時に、旅人が精霊を利用できる存在だということも見えてくる。

しかし、その点についてはこのノートで語るべきことではない。

現在の旅人は精霊を鎮めて四季を巡らせる。

昔の旅人は、それよりももっと前の所謂、古代のシャーマン的な役割を担っていたのだと思われる。


【旅人の能力について】

旅人の能力は精霊を鎮めるものだけではない。

精霊の力を利用することも出来る。

しかしこの能力は適性によって変わるようで、鎮めることは出来るが利用することが出来ない者やその逆、そのどちらも行える者とさまざまである。

能力の覚醒については、幼少期が最も多く、次いで十代、二十代となっている。

二十代後半以降は能力が覚醒することはないので、旅人の資格はそれまでに覚醒した者に限られた。

その能力の使い方を学ぶために、覚醒した者はもれなく養成所に入れられた。

ただし、これは現在の話であって、昔はそうではないといことを留意してもらいたい。


さて、旅人の能力。

精霊を鎮める方法であるが、力の強いものは精霊と対話して鎮めることが出来るようだ。

しかしそうではない者は、アクトと呼ばれる手のひらサイズの装置を用いて精霊を捕捉し、専用の瓶に精霊を閉じ込める。

そして精霊が鎮まるまでその瓶を持ち歩くことになるのだが、期間としては平均三ヵ月前後となっている。

その間、精霊は猛っているので瓶が破壊されない程度に、精霊の力を放出しなければならない。

それが精霊の力の利用方法となる。

もちろんこれは、力の弱い旅人のやり方である。

力の強い旅人は精霊と契約を結び、その力を好きな時に利用できると言われている。


【旅人の今後について】

恐らく、旅人が世界から消えることはないだろう。

しかし一部の人々の間では、旅人によって世界が支配されていると囁かれている。

この囁きが囁きのままで終われば問題はないが、もし怒号になった場合のことを考えると生きた心地がしない。

確かに旅人は特殊な能力を行使しているが、世界を支配するためにその力を使うなどということはない。

それは養成所で真っ先に教え込まれるものだからだ。

他の人よりも強いのだから、その力を使って人々を支配するようなことはしてはいけない、と。

それでも人々の疑念が消えることはなく、今でもくすぶっている。

もしその疑念が高まり怒号に変わった時、旅人は自身を守るためにその力を行使するだろう。

そうでなくては、旅人は――






この先の文字は黒いインクで塗りつぶされており、読むことが出来なかった。





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