惑星Sの特別なリンゴ
あたしたちは、新しいリンゴを創り出そうとしているところだった。
地球産のリンゴは美味しくて種類も豊富。
あたしたちの星だけでなく、周りにある複数の星でも人気だった。
地球産のリンゴは、当たり前のように星の青果店に置いてある。
でも、あたしたちの星で育ったリンゴは店に並ぶことはなくなってしまった。
リンゴ農家は地球産のリンゴの苗を仕入れて育てるも、土が合わないのか日照時間の問題なのか、そもそも他の星では栽培に適していないのか上手く育たなかった。
途中で枯れてしまうものもあれば、果実ができても石のように固く、そして酸っぱい。
食べれたものではないのだ。
そういうことがあって、あたしたちの星ではリンゴを育てなくなった。
今では公的な星の果樹園、地球で言うところの博物館や植物園にあたるのだろうか、そこにあるくらいだ。
森の方には原種のリンゴがあったと思うけれど、味も見た目も地球産には劣るので誰も触れないし食べない。
地球産のリンゴのせいで、あたしたちの星のリンゴ農家は絶滅寸前である。
リンゴ農家が消えても問題ないという声を聞くことがあるが、そういう問題ではないのだ。
あたしたちの星のリンゴは、この星の神様に捧げる神聖なものでもあるということを多くの人は忘れてしまっている。
そもそも星に神様がいたことも忘れてしまって、ただ自分たちの欲を満たすために過ごしている。
それが悪いこととは言わない。
あたしたちだって、欲を満たそうとしているのだから。
それでもあたしたちがリンゴ農家を続けようと思っているのは、星の神様に捧げるリンゴを絶やさないためである。
だからあたしたちは星の人が食べるためのリンゴを作るのを止めて、神様に捧げるためのリンゴを作ることにした。
最初はこの星の原種に近いものを育てて捧げていた。
しかし文献によると、神様に捧げるリンゴは空と同じ青い色の物が良いとされていた。
だからあたしたちは、空と同じ青い色のリンゴを新しく創り出すことにしたのだ。
星の人たちからは出来るはずがないと笑われていたけれど、やってみないと分からない。
それにあたしたちには創ることができるという自信があった。
文献にはハッキリと【空と同じ青い色】と記されていたのだから。
笑いたい人は笑っていればいいのだ。
あたしたちは必ず、新しいリンゴを創りだす。
あたしたちが食べるものではなく、神様に捧げるためのリンゴを。
それがこの星のリンゴ農家の希望だと信じて。
十数年後、この星に忘れられていた祝祭日が復活する。
純白の祭壇には、空と同じように青いリンゴが沢山祭られていた。