
一世紀前の貢献
家をもたくても生きていけるのは、気候が安定しているからだ。
家をもたない彼等がそう言ってゲラゲラと笑っていたのは、今でもよく覚えている。
『ストップ地球温暖化』
そんな言葉が叫ばれていたのは一世紀ほど前のことだったか。
そしてその頃は我が国の家をもたない人々は、冬が来るたびに凍死していたようだ。
たまに雪に埋もれて発見が春先になることもあったが、とにかくその頃の我が国は今と違って国土の半分以上が身も心も凍るほどの寒冷地だった。
想像するしかないが、恐らく家をもたない、もしくはもてない人たちには生きづらい国だっただろう。
冬が来るたびに春まで生き残れるのかどうか、気が気でなかったはずだ。
冬は食べ物の入所も困難だっただろうし、と頭の隅の方で考える。
結果として温暖化はストップできず、地球は文字通り温暖化した。
我が国にとってはありがたいことに、冬になっても雪が降り積もることは少なくなった。
一部の地域でしか降らないし、積もらなくなったのだ。
おかげさまで冬でも農作業が出来るようになり、我が国の食糧問題は解決した。
そして家をもたない人々が凍死することはなくなり、なんなら彼等は農業に勤しむようになった。
ただ、家をもたないというのは彼等のプライドなのだろう、そこは変わらなかった。
昼間は農業をし、夜はその辺で眠る。
同じように家をもたない人々と一緒に寄り添って、誰にも襲われないように、誰ひとりとして怪我を負わされないように眠る。
彼等は人には襲われないが、虫にはよく襲われていた。
しかし一世紀以上外で、家をもたない生活をして、虫に襲われ続けているのだから耐性ができているようで彼等はあまり動じない。
起きて農作業を始める頃には、また虫にやられちまったよガハハ、みたいな声が良く聞こえてくる。
きっと彼等の遺伝子を調べれば、我が国の家をもつ人々とは違うものがあるだろう。
まあ、そんな時間も金もかかることをしたりはしないが。
……少なくとも、今は。
温暖化の恩恵を受けた我が国は、徐々に豊かになっていっている。
しかし他の国々を見渡すと、どうもそうではないらしい。
我が国には恩恵、利益をもたらした温暖化であるが、もともと暖かな国や絶妙に涼しく過ごしやすい国は気候の変化に上手く対応できなくて衰退していっている。
とはいえ、温暖化を止めようとしても、それは人の力では無理だったように思う。
我が国の資料を見る限りでは、温暖化を本気で止めようとしていた国はなかったことが読み取れる。
達成できない目標を無理に掲げるわりに、達成できなかったら責め立てる。
それに大きな国が温暖化にたいして貢献するべきなのに、国土の小さな国々の方が率先して貢献していっている。
さらに言うとその小さな国々の方が努力が足りないと責め立てられていたようだ。
資料を見ているだけで当時のことはわからないが、全く持って変な感じである。
ただ、一世紀前の人々が何を思ってそんなことをしていたのか、正直興味はない。
だが、もしその無理な目標や大国が貢献しなかったおかげで温暖化が進んだというのであれば、それは我が国にとっては大きな貢献だ。
ありがとう、と手を叩き、褒め称えてやりたい。
膨大な資料に目を通すのに疲れて休憩する。
我が国は今日もいい天気で、ぽかぽかと暖かい。
窓の外に目を向けると、家をもたない人々がせっせと農作業をしていた。