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黒い水
黒い水はいつでも燃える準備が出来ている。
俺達の国はひとつの物を除いて資源が乏しい。
だから他の国と物々交換のように資源をやりとりしている。
他の国には俺達の国の資源がないようで、ある意味では俺達の国はそれを独占状態にしているとも言える。
俺達にとっては腹も満たすことすら出来ない、ぽんこつな資源であるが他の国はこぞってそれを欲しがっている。
そんなにいいものではないと思いつつ、その資源のおかげで俺達の国はある意味で豊かになった。
貧困層も減った。
でも完全に貧困層が消えるわけでもなく、一部はまだ貧困なままだ。
ただ富裕層が増えたおかげで、その富は公平に分配されるようになり餓死するものはいなくなった。
この国の富裕層は貧困層に施しをすることを好んだ。
恐らく四世代前に貧困層だった者が多いからだろう。
親から、祖父から、貧困層だった時代を聞かされて育った富裕層が多いと、自らがそうでなくとも貧困層にたいして思うところがあるのかもしれない。
まあ、そんなことは俺には関係ないのだが。
それよりも現時点で俺達の国の問題は、その唯一の資源が枯渇ではなく溢れかえってきていることだ。
隕石が落ちたと言われている大きな穴に、その資源は溜まっている。
他の国にそれを汲み上げて渡すようになり一時はその総量が目視でもわかるくらい減ったものの、近年その量が急激に増えており穴から溢れそうになっているのだ。
あの資源、通称【黒い水】は陸地に溢れ出てこられたら困るのだ。
あれは引火しやすく、火がついたら一気に燃え上がりなかなか消えることはない。
水をいくらかけたって消えやしない。
森にその火が広がってしまえば、俺達の国はお終いだ。
食料も水も乏しい。
また餓死する者が増えるだろう。
そして富裕層は減り、貧困層が一気に増える。
そんなことになったら大変だ、ということは子供だってわかることだ。
だから俺達は出来るだけ多く、黒い水を汲み上げている。
二十四時間、三百六十五日、休まず汲み上げる。
黒い水が陸地で燃え上がらないよう、いつまでも。