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なぜ、デザインリサーチをひらくのか?

コンセントでは、2023年度から「ひらくデザインリサーチ」という活動を実施しています。有志メンバーが集まり、自分の興味や関心をベースに問いを立ち上げ、探索するためのデザインリサーチプログラムで、「土着」「工夫」「余裕」という3つのテーマに分かれて活動しています。

「ひらくデザインリサーチ」概要

マガジンで随時各メンバーの活動内容を発信していきますが、本記事では、全体のイントロダクションとして、そもそもなぜこの活動をしているのか?「デザインリサーチをひらく」とは具体的にどういうことなのか、簡単に解説したいと思います。

活動の目的としては、大きく2つあります。それぞれ簡単に説明します。

  1. 「デザインリサーチ」そのものに対する視野を広げる

  2. 個人の興味関心をふまえた「問い」への向き合い方を探索する


「デザインリサーチ」の多面性

まず、前提となる「デザインリサーチ」ですが、この言葉自体、使われる文脈によって意味が大きく変わります。ビジネスの現場で使われる際には、端的に言うと、新規サービスや製品をデザインする際に行うユーザー調査のことを指します。具体的には、参与観察、デプスインタビュー、コンテクスチュアルインクワイアリーなどの調査とそれに付随する一連のアクティビティです。コンセントでも、通常プロジェクトで「デザインリサーチ」と言う場合には主にこの意味で使われることが多いと思います。

しかし、「リサーチ(Research)」には本来、「研究」という意味もあり、アカデミックな文脈で使われる際には「デザインリサーチ」はその名の通り、デザインに関連するさまざまな研究領域のことを指します。「ひらくデザインリサーチ」では、この「調査」と「研究」を包含する広い視点で「デザインリサーチ」を捉え直すことをねらいとしています。

これは、単にビジネスとアカデミックの領域を越境するということ以上に、「デザイン」と「リサーチ」の関係性を捉え直すということも意味します。前述のようにビジネスの文脈で「デザインリサーチ」という際には、あくまで新規サービスや製品をデザインするためのプロセスとしてリサーチを捉えています。つまり、「デザイン」が目的で「リサーチ」が手段になります。しかし、デザインリサーチにおいては「リサーチ」が目的で「デザイン」が手段になることもあり、一般的に、前者が「Research for Design」、後者が「Research through Design」と呼ばれます。

つくることを通して新たな知を創出することを目的とした「Research through Design」は、1993年にクリストファー・フレイリングが提唱したものですが、その後もさまざまな研究者によって批評、実践されつつ今なお発展を遂げています。ここではその詳細は語りませんが、興味がある方は一例として三好賢聖さんの著書『動きそのもののデザイン リサーチ・スルー・デザインによる運動共感の探究』を読んでみてください(メンバーでもこの本を課題図書として読みました)。

このように、「デザインリサーチ」という言葉一つをとっても、普段業務で接している「デザインリサーチ」はあくまで一面的なものであり、その視野を大きく広げるということが、1つめの目的になります。

自分の「問い」に向き合う

2つめの目的は「問い」への向き合い方を考えることです。リサーチを始める際には、その起点となる「問い」を立てる必要がありますが、これがなかなか難しい。

『リサーチのはじめかた』という本の冒頭には次のように書かれています。

どこから研究を始めるかという問いに直面したとき、人はついつい自分の外に答えを探してしまう(中略)しかし研究というものは、研究者が自分のなかにある問題を見極め、それに対してどうすればいいか考えることから始まるものだ

トーマス・S・マラニー,クリストファー・レア, 『リサーチのはじめかた―「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法』, 筑摩書房, 2023

コンセントでも業務の中でデザインリサーチをすることはありますが、そこで立てる「問い」(=リサーチクエスチョン)は、基本的にはクライアントの要望やビジネスゴール、プロジェクトの要件など「外から」与えられるものをベースに設計することが多いと思います。そういう制約を一旦全部なくして、いざ自分で自由に問いを立てようとすると途端に困惑します。そもそも自分は何に興味があるのか? 何を知りたいのか? なぜそれを知りたいと思うのか? こうした内省を繰り返し、自分の「内側」を見つめ直すという経験は、実は業務としてのデザインリサーチではなかなか難しいことが多いのです。

さらに、研究テーマを立てる過程では、自分の問いを既存の研究領域や(広く言うと)社会とどう接続するのか? ということも考える必要があります。これは、突き詰めるとそもそも「デザイン」という行為が既存の学問領域や社会の中でどう位置づけられるのか? という問いにもつながります。

ポストヒューマニズムデザインの研究者であるロン・ワッカリーは、著書『Things We Could Design』の中で、「ノマド的実践」(Nomadic Practices)という言葉で、従来的な学問領域に対するデザインのオルタナティブなあり方を提唱しています。これは(一言で説明するのはなかなか難しいのですが)ざっくり言うと、デザインという概念は他分野との明確な境界線を持つ独立した知識体系ではなく、あらゆる学問領域を横断し、既存の研究基盤を揺さぶり、しばしば他の実践と争ったり連帯しながら「定住」と「移動」を繰り返すものであり、そのノマド的な特性こそが「デザイン」の本質である、というようなことだと理解しています。

こうした視座に立つと、デザインリサーチを通じて「問い」に向き合うことは、自分の内面を見つめ直すと同時に、「デザイン」という行為がもつ社会的な意味も改めて考え直すことにつながるのではないかと考えています。

「つくること」と「わかること」の両方を問い直す

長々と説明してきましたが、「ひらくデザインリサーチ」は、端的に言うとデザイナーにとって根源的である「つくること」と「わかること」の両方を問い直すための活動、と言うこともできます。重要なのは、一人一人が自分の頭と手を使ってこの問いに向き合うことであり、「ひらくデザインリサーチ」はそうした個々の活動をゆるく束ねるレーベルのようなものだと思っています。
まだまだ実験的な取り組みなので、荒削りな部分も多いですが、各メンバーが自分の問いに向き合い、もがき、探索する過程を通して、何かしら自身の仕事や暮らしを見つめ直すきっかけになれば幸いです。

各チームのレポート(随時更新)

土着:土着的なコ・デザインはどのようなエコシステムによって生まれてくるのか?

工夫:組織から要請されずとも自然に発露する「普段づかいの創造性」とはなにか?

余裕:加速主義が進む社会で「余裕」をどのようにつくるか?

活動共有会レポート

参考文献

  • Koskinen, I., Zimmerman, J., Binder, T., Redström, J., Wensveen, S., Design research through practice, Amsterdam: Morgan Kaufmann, 2011.

  • 水野大二郎, 「意地悪な問題」から「複雑な社会・技術的問題」へ移行するデザイン学の研究、教育動向に関する考察, KEIO SFC JOURNAL Vol.17 No.1, 2017.

  • Stappers, P. & Giaccadi, E., Research through Design, The Encyclopedia of Human-Computer Interaction, 2nd Ed., 2017.

  • 三好賢聖, 動きそのもののデザイン リサーチ・スルー・デザインによる運動共感の探究, BNN新社, 2022.

  • トーマス・S・マラニー,クリストファー・レア,  リサーチのはじめかた―「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法, 筑摩書房, 2023.

  • Ron Wakkary, Things We Could Design: For More Than Human-Centered Worlds,  The MIT Press, 2021.



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