「シビックサービスデザイン」のすゝめ
6月から、豊岡市で「シビックサービスデザインゼミ」という活動を始めました。地元の中間支援組織や行政職員、大学生などの有志が集まって、サービスデザインをともに学び、実践する活動です。今回は、この活動に至る背景をご紹介し、「シビックサービスデザイン」が持つ可能性について考察します。
きっかけは豊岡の中間支援組織「ちいきのて」
ことのきっかけは、豊岡で地域コミュニティの活動を支援する「ちいきのて」の青柳さんからいただいた相談でした。青柳さんとは昨年から豊岡のプロジェクトでご一緒しているのですが、豊岡の地域コミュニティづくりを担っている地元の方向けにサービスデザインの研修をやりたい、という相談でした。しかし、その研修プログラムというのは1回2時間、3講座という枠なので、できることもかなり限られてきます。そこで、「人に教える前に、まずは自分が学ぶことから始めたらどうでしょう?そのためのサポートするんで」ということで、有志メンバーも誘って勉強会を実施することになりました。
超実践形式の「ゼミ」
ということで企画の内容を詰め、勉強会の名前を「シビックサービスデザインゼミ」としました。「学校」とか「塾」ではなく、あえて「ゼミ」としたのは、一方的に知識を学ぶのではなく、プロジェクトベースで参加者が自ら学び、やり方を考え、実践することをねらいとしたからです。表面的な手法やメソッドをただ覚えるのではなく、その奥に潜む概念や考え方に触れ、「身体で覚える」ことで、今後、さまざまなプロジェクトに対峙する中で、学んだことを自分なりに工夫し、活用するための応用力を身につけます。
サービスデザインの研修をする場合、あらかじめプロセスやメソッドが決まっていて、参加者は与えられた枠組みに沿ってワークをこなすことも多いと思います。私も、企業や行政向けにそのような研修やワークショップをいくつかやってきました。しかし、サービスデザイン思考の肝は「プランニング」にあります。さまざまなアプローチやメソッドがある中で、ゴールに至るパスを描き、プロジェクトの進め方自体を常に問い続けることが、サービスデザイン思考の本質だと思います。
サービスデザインの実践を車の運転に例えるなら、あらかじめプロセスが決められたワークショップは、いわばタクシーの後部座席に乗るようなもの。なんとなくそれっぽい風景を体験することはできますが、それをいくら積み重ねても車を運転できるようにはなりません。もちろんそこから始めることにも意味はありますが、本当にサービスデザインを実践するためには、エンストしても脱輪してもいいから、とにかくまずは自分でハンドルを握って運転してみること。かなりチャレンジングですが、今回はあえてそのようなプログラムにしました。
理解→実践→振り返りのサイクル
こんなにハードルが高い(笑)プログラムにも関わらず、青柳さんたちの声がけのもと、結果的には11名の有志メンバーが集まってくれました。属性としても、「ちいきのて」のメンバーに加えて、地域おこし協力隊、社協、豊岡市職員、図書館職員、豊岡出身の大学生など多種多様です。サポーターとして、同じく豊岡のプロジェクトでご一緒しているCode for Japanの砂川さん、インターンの京都工芸繊維大学の岡本くん、豊岡の地域おこし協力隊の渡邉くんに入ってもらい、いよいよ活動が始動しました。
プログラムは、大きく「理解」「実践」「振り返り」というサイクルで構成しています。「理解」のパートとしては、サービスデザインの実践書である『This is Service Design Doing』をアクティブ・ブック・ダイアローグ形式で輪読するスタイルを取りました。『This is Service Design Doing』はよく「鈍器」と称されるほど分厚い本ですが、この形式でやると、2時間×3回ほどで主要なパートを読むことができます。
次に「実践編」として、豊岡市の図書館サービスを題材として、各チームで実際のプロジェクトプランを立案し、リサーチ→アイディエーション→プロトタイピングというサービスデザインのプロセスを実践し、各パートが終わったタイミングで振り返りをするという構成です。
先週、ちょうど最初のプランニングをしたのですが、両チームともかなり苦戦(笑)。かなり悩みながらも、なんとか最初のタスクを決めて取りかかっています。プランニングをする上で不確実性が高い多くのパラメータを目の当たりにすることも良い経験になるのではないかと思います。実践編はいよいよこれから具体的なアクションに入っていきますが、実際のリサーチやプロトタイピングを体験することで、サービスデザインを「身体で覚える」機会になればいいなと思っています。
ミドルレイヤーに変革のくさびを打ち込む
ちなみに、(今さらですが)「シビックサービスデザイン」というコンセプトにはお手本があって、ニューヨーク市で2017年ごろからすでに行政の取り組みとして実践されています。貧困問題に取り組む「NYC Opportunity」という市長室の組織があり、その中にサービスデザインスタジオが組織されています。シビックサービスデザインを実践するための戦術やツールキットも整備され、さまざまな市民共創プロジェクトが実践されています。
「シビックサービスデザインゼミ」は、残念ながら(まだ)行政の公式な取り組みではなく、あくまで有志の活動ではあるのですが、一つ可能性として感じているのは、行政主導ではないこうした取り組みの方が、むしろ行政や地域全体を大きく変革する「くさび」になりうるのではないかということです。
地域全体のステークホルダーを「官↔︎民」「地元民↔︎ヨソ者」という2軸で捉えた場合、今回集まっていただいたメンバーは、ちょうどその中間に位置する人が多くなっています(下図)。
メンバーを募集したときはそんなことまったく意図していなかったのですが、よくよく考えるとこうしたミドルレイヤーに位置する人たちは、普段から行政、住民それぞれと接点を持っており、双方に影響を及ぼしうる立ち位置にいます。実際、「ちいきのて」の青柳さんも、豊岡市の各エリアのコミュニティの人たちと日常的に接しており、各地域の「地域づくり」に対するアドバイスなどをしています。(余談ですが、豊岡市には地域コミュニティという自治制度があり、各コミュニティの住民が自分たちの地域の中長期的なビジョンと活動プランをまとめた「地域づくり計画」というものをつくっています。こうした自治の土壌があること自体も興味深いです。)
企業においても、中間管理職をコアに組織変革するアプローチを「ミドルアップダウン」と言ったりするそうですが、地域においても、このようなミドルレイヤーの人たちがサービスデザインのスキルを身に付け、エバンジェリストとなって行政、地域双方に伝播していくことができれば、行政からのトップダウンでやるよりも結果的に近道になる気もします。
これはちょうど、Code for Japanが「シビックテック」の思想で日本全国に草の根のコミュニティを拡げ、自治体からの信頼も得て、いまや日本のDXを推進する上で欠かせない存在となっている(と個人的には思っている)のと同じ構造ではないかと思います。サービスデザインの文脈でも、同じように「シビックサービスデザイン」の動きをスケールアウトできれば、地域全体を市民共創型に変革することにつながり、ひいては行政のDX(GDX)を推進することにもつながるのではないかと思います。(これも余談ですが、Code for Japanと連携して、テクノロジーとサービスデザインを融合させるようなプロジェクトも近々動き出そうとしているのですが、その話はまた追々。)
まだ活動は始まったばかりで、これから本格的に実践が始まりますが、今回の取り組みを体系化し、他の地域や自治体でも「シビックサービスデザイン」のムーブメントを展開できることを目指して今後も探究しようと思います。
PUBLIC DESIGN LAB. :https://pub-lab.jp/
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