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誠実な音楽の底にあるもの 高田泰治の平均律第2巻

東京文化会館小ホールで高田泰治のリサイタルを聴いてきた。

バッハの平均律クラヴィーア曲集第2巻全曲である。
チェンバリストにとって気軽な気持ちで取り組める曲ではないだろう。
ヴァイオリニストやチェリストにとってのバッハの無伴奏曲と同じ。
何年かに一度、自分の立ち位置を確認するために、聴衆に提示するために取り上げるような曲。
年一回恒例で弾いてる人もいるが…😅

お客さん3割くらい😂
知名度が低すぎるのだ。
私も今年知ったくらい😂
関西で活動する延原武春指揮のテレマン室内オーケストラで専属チェンバロ奏者を務めている。

mixiで知り合った兵庫県にお住まいのFさん(お元気だろうか?)が延原推しで以前から気になっていたので、秋のブランデンブルク協奏曲全曲演奏会(東京文化会館小ホール)を取った。
その際に彼のリサイタルを知ったのだ。

バッハ・アルヒーフの定期演奏会に招かれたり本場での評価も高く、YouTubeで演奏を聴いてみたらこれがいいのだ(《試食》できるなんて便利な時代だ)
期待して出かけたが、素晴らしいバッハだった!

最近出かけたマケラやノットが不発でまわりの熱狂に白けっぱなしだったが、今日のリサイタルはスタンディングオベーションしたいくらいだった(お客さんの拍手があっさりすぎた😂)

高田泰治のバッハの素晴らしさは何よりもその姿勢のよさに尽きる。

彼がよく見える席で聴いたが、背筋をすっと伸ばして弾く姿には変な力みがなく、普段の練習と変わらない姿に見えた。

稀代のバッハ弾きアンドラーシュ・シフは毎朝バッハを小一時間弾くという。
バッハの音楽にはピアニストとしての修練のすべてが備わっているのだそう。
高田泰治のバッハも彼の日課の延長のような、こなれた音楽だった。

その音楽は誠実そのもの。
レオンハルトのような厳格さとも、コープマンのような楽天さとも異なる、高田泰治ならではの音楽。

誠実というのは演出できない。
私は「優しい」と言ってもらえることが多いが(自慢?😅)、以前の職場の人に「誠実ですね」と言われたときは嬉しかった。

優しさは装える。
気になる相手の前でアピールしたりもできる。

誠実は装えない。
好きな人には優しく、そうでない人には冷たくなんて使い方はできない。
誠実は人を選ばないのだ。

高田泰治の音色にも普段の彼の生き方が現れている気がした。
音楽家としてだけでなく、一人の人間としての営みが音楽になっているのだ。

演奏のことに触れれば、24曲のうち2曲だけマンドリンのような音色で弾かれたのが面白かった。
どういう理由かはわからない。というか、そもそもチェンバロの音色が一瞬で変えられることを知らなかった😅
一曲終えるたびにチェンバロの端を触っていたが、私が気づかないだけで毎回微妙に音色を変えていたのかもしれない。

もっと楽器のことを勉強しないと、と思った😅
特に管楽器は知らないことが多い。
指揮者はすべての楽器について深い理解がないといけないから大変だ。

今回、プロジェクターでホール壁面に曲の番号と調号が表示されていた。
長丁場でいまどこにいるかわからなくなるので笑、ありがたい配慮だった😊
ただ12番のあとに休憩があるのは事前に知らせてもよかったような。
私は想定していたが、前半頭を垂れていたり疲れてそうなお客が多かった😅

この小ホールの音響のよさにも改めて驚いた。室内楽ホールというとトッパン、王子、浜離宮、紀尾井あたりが有名だが、ここを忘れていた😅
壁面がコンクリで、木のホールより寒々しいが、教会で聴いてるかのように豊かな響きがする。
調律師(梅岡俊彦)の力も大きいだろう。

あまりにも長いし、玄人向けのプログラム。一見さんは来ない方がいい笑
来るなら事前に予習して体力配分を考えた方がいい😅
私も長いことよさがわからなかった。ゴルトベルク変奏曲やフランス組曲、パルティータは好きだったが、平均律は晦渋すぎる。

その苦手意識を払拭してくれたのがポリーニの録音だった。
20世紀最高のピアニストと評されるポリーニがバッハを録音したのは67歳になってからだった。
内田光子なんて73歳のいまもバッハの録音はない。バッハは軽々しく取り組めない存在なのだ。

ポリーニのバッハは円熟そのもの、まろやかで音楽がこなれている。
厳しさはなく、優美。歌があふれている。
平均律は学術論文ではなく、豊かな情感なのだと知った。

今日高田泰治のチェンバロを聴いていて、音色が色鮮やかな万華鏡のようにキラキラ輝くのを見た。
調律師の腕もあると思う。なんて美しい響きなんだろうと思って聴いていた。

長丁場なのに高田泰治は最後までテンションを切らさず、演奏の水準を保っていた。
ラストに向けてわざとらしく盛り上がったりもしない。
あくまで淡々と、日課としてバッハに取り組む彼の日々の延長がそこにあった。

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