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物理のデザインでAIを使う課題と可能性

AI家具 - NO NAME


実現したものがこちら。「NO NAME」とタイトルをつけました。

家具デザイン:宮下 巧大 / 布井 翔一郎 / 匿名家具デザイナー
家具製作:高橋 晶(TRUNK) 写真撮影:竹内 瑠奈

下に窄んだ台形のシルエットは、デザインの過程でAIを利用しなければ出来なかったであろう形状で、クリエイティビティにAIは影響すると体感したプロジェクトになりました。完成物は納品したクライアントにも"かわいい"と気に入ってもらえています。このnoteは、AIで家具のデザインをしながら考えたことと学んだことを、3つのテーマでまとめたものになります。

制作のきっかけ


プロジェクトはこちらの投稿をきっかけに始まりました。

生成AIが普及して以降、「デザイナーの職能がどのように変化していくのだろう?」という興味と不安からAIの限界を探る実験をしてきました。その多くはデザインの案を考えるまでの実験でしたが、幸運にもAIを利用した家具を創りたいと言ってくれた方と出会い始まったのがこの制作です。

制作の要件はいたってシンプルです。

制作の要件
1.引っ越しに伴い新調する家具に合うキャビネットが欲しい
2.予算上限あり(詳細な金額は非公開です)

製作プロセスとAIの活用箇所


制作全体の流れは以下のとおり。特別なことはありません。

まずは、「キャビネットの形状変更」です。制作のきっかけとなった画像の家具は今回クライアントが要望しているものよりも大きく、適切なサイズに縮小する必要がありました。AIの機能では"Image 2 Image"を利用し、元の家具画像の"らしさ"を残しつつサイズの縮小を重ねました。

サイズが絞れたタイミングで概算の見積もりをするのですが、予算がオーバーしており「VE(Value Engineering)」をすることになります。AIの機能では"Inpaint"を利用し、部分変更を繰り返し予算に収まる形状を探りました。

最後に、決まった新居の家具に合わせて「色の調整」をしています。AIの機能だは"ControlNet"を利用し、形状を維持したままカラーバリエーションを大量に出力し良し悪しの検討をしています。

このプロセスのなかで考え試したことが下記の3つです。

Absolute Design :  非言語コンセプト


普段デザインの仕事をする際、「クライアントへの説明のため」「チームでの方向性すり合わせのため」コンセプトの言葉にすることが多いと思います。今回のその「言語化をしない」でデザインをすすめました。

というのも、制作のきっかけとなった家具は"アンバランスな形状"をしていたのですが、このアンバランスの加減を言語化してデザインを進めることに違和感があったからです。「非合理さを狙って創るのは違うだろう」と。

とはいえ、複数人でデザインをする以上、ゴールの方向性を揃える必要はあります。そこでおこなったのが、初期案を元にimage 2 imageで出力した大量に画像への「好き」「良い」「嫌い」のチェックづけです。

「好き」画像と「良い」画像の一部
「嫌い」画像の一部

やりたかったのは「言葉」ではなく「画像」による感覚のすり合わせです。関係者全員で大量の画像選別をおこなうことで「これは"らしくて良い"ねー」という会話が成り立つ状況をつくりました。

やっていることは、ムードボードの作成と似ていますが、画像生成で集めた画像は"量"が圧倒的に多く、画像同士の"差"も小さいため、感覚の共有度が精緻になります。だからこそ、言葉がなくてもデザインを滞りなく進めていける有効な手段になりました。今回はケースではこの手法がハマりましたが、メッセージやストーリー性が乏しくなるデメリットがあり、要件次第では使えなかったと思います。

1つ余談ですが、「◯◯曲◯番」のようにタイトルが番号のみの曲は、タイトルに意味のある言葉をもつ"表題音楽"に対して、"絶対音楽"と呼ぶんだそうです。家具の名称はここからきています。このデザインプロセスは"イミ"を問われることが増えた現代のデザインにおいて、絶対音楽的なデザインの在り方を考える糸口になるのではないか?と考えています。

Visual Engineering : イラスト減額調整


物理的なモノを制作する仕事の多くで減額作業がつきまとうのですが、画像生成AIを活用した物理デザインの問題の1つが「デザインを絵で起こしているため図面が存在しない」ことです。

画像を出力する度に図面を書いていると工数が非常に多くなります。とはいえ、途中からデザイン修正を図面でおこなうと"らしさ"を維持するのが難しい問題に直面します。

そこで今回は、「絵でVEをしよう」ということになりました。図面化せずに絵だけで、減額作業をおこなうスタイルです。

やったことはシンプルで、デザイナーと職人が絵を囲んで会話をしながら素材やサイズを想定して金額を判断。予算を超えていそうだと思えばその場でAIを活用して大きさや形状の調整と仕上げの変更を繰り返すだけです。結果的にこれがうまくいったのですが、言うまでもなく職人(とデザイナー)に経験がないとできない手法です。結局AIがあるからといってなんでもお任せはできず、AIは経験があるからこそ扱えるものなのかもしれません。

Democracy Design : デザインの民主化


以前、部屋に合わせて家具をデザインする実験をしたことがあります。

これと似たようなことを今回おこないました。具体的にはお施主さんが選定した家具を読み込ませてデザインの調整をおこなっています。

読ませるものは家具ではなく、アクセサリーやグラフィックやファッションなどを選定することも可能なので、パーソナライズされたモノの創り方の手法としてAIを活用するこは、汎用性の高い方法なのかもしれないと考えています。この方法ではキュレーションとクリエイションが近いており、デザイン行為を民主化する可能性を持っていると思います。とはいえ、生成される無数のバリエーションから1つを選択することは難しいことで、ここでもデザイナーの経験は必要そうだと今の所は感じています。

完成品


改めて完成品の写真をAIの最終画像と一緒に数枚貼っておきます。

最終調整後のイメージ
実際の完成品

まとめ


今回はじめてAIから実物の制作をおこなって可能性は感じつつ、「非言語コンセプト」にしろ「絵だけで減額調整」にしろ「デザインの民主化」にしろ経験ありきの方法だったので、まだ「AIでなんでも」までは達していないと改めて実感しました。これらもいずれAIでカバーされるかもしれませんが、どこかしらに人の力が必要になることがしばらく続きそうな気がしています。

今回の仕事を通じて、ナレッジも溜まり制作プロセスも含めアップデートできるポイントも見えてきました。今後もAIでの家具の製作を続けていこうと思うので、オーダーメイドで家具を製作したい人がいらっしゃれば是非お声がけください。

また、家具以外にも小物や照明など、あらゆるプロダクトの製作に展開できる方法も探り始めています。AIでの制作に興味のある人や会社さんがいらっしゃいましたらお声がけいただけると嬉しいです。


紹介その1


今回の制作は家具職人の高橋さんに助けられました。エイジング加工が得意なので気になる方は是非オーダーしてみてください。

紹介その2


家具や照明など過去製作の一部はこちらのnoteにまとめています。

雑貨シリーズの抜粋
インテリアシリーズの抜粋

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宮下巧大
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