(131) 21世紀に何をどう教えるべきか
2021年4月18日(日)
2020年度の「教える技術オンライン研究会(OGOK)」(全10回)から、研究トピックや研究スキルを紹介するシリーズの第7回目です。今回は研究トピックとして「21世紀に何をどう教えるべきか」を取り上げます。最後には、そのレクチャービデオを紹介しています。
・教育の4つの次元
21世紀に何をどう教えるべきかという問題を考えるときに参考になるのが、C. ファデル、M. ビアリック、B. トリリング『21世紀の学習者と教育の4つの次元』(北大路書房, 2016)という本です。
この本で、著者たちは教育の4つの次元を次のように整理しています。
(1) 知識 (knowledge):何を知り、何を理解しているか
(2) スキル (skills):知識をどのように使うか【創造性、批判的思考、コミュニケーション、協働】
(3) 人間性 (character):どのようにふるまい、世界とどのように関わるか【動機づけ、レジリエンス、社会・情動的知性、シチズンシップ】
(4) メタ学習 (meta-learning):どのように自分自身を振り返るか、自らの目標に向け学びや成長を続けようとするか【自律性、省察性、学び方を学ぶ】
この4つの中で、21世紀の教育は「スキル、人間性、メタ学習」こそが中心に置かれるべきです。しかし、「教育の惰性」つまり、伝統的な教科・学問分野が自ら維持しようとする力が働くため、「スキル、人間性、メタ学習」のための時間はほとんど残されていないという問題があります。
そこで、各教科領域の中でできることは、教科を横断し、一生使い続けるような大切な概念(メタ概念、ビッグアイデア、エッセンシャルクエスチョン)に重心を置くことです。たとえば数学におけるメタ概念とは「変化率」や「証明」であり、これらの概念は分野を超えて使われる概念となります。
・コア概念を学び、応用する
たくさんの専門領域が成立し、増え続けています。一方で、そのすべてを学ぶための時間はありません。人々は自分の専門を決めた後には二度と使わない内容の学びに多くの時間を費やしています。そこで、それぞれの専門領域における基礎となるコア概念を学び、それをあらゆる領域にまたがって柔軟に応用していくことが必要とされる戦略です。これを「専門的アマチュアリズム」と呼びます。
特定の領域のコア概念がなんであるかは、その専門家が提示すべきものです。そしてその専門は、そのコア概念を中心として教えられるべきです。そうすれば、そのコア概念は特定の専門領域を飛び越えて、他の領域でも応用できる知識となります。
コア概念や専門的アマチュアリズムについては、ウェイン・ホルムス, マヤ・ビアリック, チャールズ・ファデル『教育AIが変える21世紀の学び : 指導と学習の新たなかたち』(北大路書房, 2020)に書かれています。
・熟達と転移のサイクル、そして加速度学習
この背景には、21世紀には非ルーチン的な対人業務と非ルーチン的な分析業務だけがニーズが伸びていくということがあります。ルーチン化された業務はロボットやAIに取って代わられていきます。一方、非ルーチン的な業務に対応するためには、知識やスキルを応用する「転移」の能力が必要です。
伝統的教育では熟達の結果として転移を想定してきましたが、それは実態とは違っています。どんな専門的知識でもスキルでも、ある程度熟達してから、それを違う領域に転移できるのではなく、むしろ転移が困難であることが明らかにされています。転移をうまく行なっている人は、熟達を待つのではなく、少し学んだらすぐにそれを転移させて使おうとします。そしてそれを何度もサイクルとして行なうことで進歩していきます。それが「熟達と転移のサイクル」です。
これは、文脈は違いますが、ベイトソンが「加速度学習」と呼んだ現象に相当するでしょう。人間の学習は、直線的に進むのではなくて、なかなか進歩しないステージと「何かをつかんだかも!」という感覚で一気に進歩するステージが交互に現れてきます。「何かをつかんだかも!」という感覚は、学び方・訓練の仕方を学んだということに相当します。そのことによって加速度的に学習が進むのです。
初めに戻れば、これはその領域における「コア概念」をつかみかけている状態であるといえるでしょう。
ベイトソンの加速度学習については次の本に載っています(Amazonでは品切れのようです)。
グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学』(新思索社, 2000)【Amazonでは品切れ】
・解説ビデオ:21世紀に何をどう教えるべきか
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