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気配 【短いお話】

駅舎を出てタクシー乗り場まで歩く途中の右側、オレンジ色の粒が霧のように集まっている場所がある。
わたしは「いつも温かそうね」と心の中で声を掛ける。
祝福と約束の地。

川が海へ流れ込む。
砂地の植物が風になぶられる。
浜防風
河原撫子
ここは自然と声が出る場所。
わたしは大きな声を出す。言葉ではなく。
声は強い風に乗って遠くまで走っていく。

ここには鮭が帰って来ていた。
今はもうその大きな川はない。
小さな細い水の流れだけがあるけれど。

チョコミントのアイスクリームを二つ買ってこちらへ歩いてくる人。一つはきっと向こうで待っている誰かの分。
今、すれ違った。
チョコミントとラムレーズンにときめいていた時間を、ダッフルコートを着たわたしが思い出す。




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