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マーチ/シロクマ文芸部

三月になったので魚座の尻尾を結んでいるリボンをグイッと引っぱったらファンファーレが鳴った。
艶やかなトランペットの音が響き渡り、どこからともなく紙吹雪までも。舞う、舞う、舞う、舞い過ぎだ。
尋常ではない量に、もはや目を開けていられない。

野うさぎがうさぎ穴から飛び出てきた。次から次へとポンポンポンポン。
紙吹雪の中をお構いなしにびゅんびゅん跳ねる野うさぎ達から、あたしは何度も体当たりを食らった。小さな体のくせにぶつかると結構痛いよ。
よく見ると、ぶつかった野うさぎは地面に降りる直前にお花に姿を変えていた。
足元には白いお花が咲いてゆく。
咲いたばかりのお花を紙吹雪が撫でてゆく。

乱れ飛ぶ紙吹雪の向こうに、羊によく似たおじいさんが現れた。
大音響で鳴っている音楽の力強いリズムに合わせて、ずんずん歩いて来たおじいさんはあたしの前で止まった。
近くで見るともっと羊に似てるなあと思っておじいさんの顔を見つめていたら
「あなた、これ、種、蒔いて、はやく」
と耳元で大声で言われて、あたしはびっくりして飛び上がった。
おじいさんは肩から斜め掛けしているやたらどでかいキャンバス地のサコッシュに手を突っ込んだかと思ったら、中から皺くちゃの茶封筒の束をガシッと一掴み取り出してあたしに押しつけた。

「ああ、忙しい忙しい」
と言いながらこちらへは目線もくれず、来たときと同じように、華やかで威勢の良い音楽に足取りを合わせながら歩いて行ってしまった。

自慢じゃないけど、あたしはこういうふうな事に巻き込まれがちである。

渡された茶封筒は種袋だった。
お花の絵のラベルが貼ってあって、レトロでとても可愛らしい。
撫子
雛菊
百日草
もっともっともっといろんなお花


狂騒の三月を心から歓迎する。
巻き込まれ上等である。



シロクマ文芸部の企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。

#シロクマ文芸部
#三月に





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