見えないものが見える
一時期、いわゆる「見える人」が、わたしの周りに渋滞していたことがあった。
職場の後輩だったSちゃんは幼い頃からそうだったらしい。見えないものが見えていたのだそう。
赤ちゃんの頃はぐずりがひどくて(今で言うところのギャン泣きかな?)心配したSちゃんのご両親は神社へSちゃんを連れて行き、疳の虫を抜いてもらったとのこと。
疳の虫って、わたしの年代だとなんとなーく聞いたことがあるパワーワードだけど詳しいことは知らないよね。
Sちゃんがご両親から聞いてた話では、神社でご祈祷?をしてもらったらSちゃんの手だか指だかから白い糸のようなものが出て来て、それが疳の虫らしいと。
うーむ。ますます分からない。
感受性が強くて繊細な赤ちゃんだったのかなと思うけど、成人したSちゃんはおっとりした性質のお嬢さんだったな。
中央分離帯の緑地に女の人がうずくまってるので大丈夫かなと心配になったけど、それはSちゃんにしか見えてなかったとか。
2階の彼女の部屋から階段を降りきった1階の壁側が陰になっている場所におかっぱ頭の子どもが見えるけど、それはSちゃんが落ち込んでいる期間限定。でも、居るのはいつもその子だそう。失恋したときは見えまくっていたと。
Sちゃんが言うには、普通の人間みたいに見えていて、動かないでずっとそこにいるから、あれ?あ、そうかって思うんですって。
Sちゃんのお友達の話。
一人暮らしのお友達が仕事から帰ると、部屋にはご飯の炊ける匂いが。お米を研いだ憶えもないし炊飯器のタイマーをセットした憶えもないのに、ご飯が炊けていたと。しかも度々そういうことがあったと。
誰もいないのにドンドンと物音がー!とか、使ってないのにシャワーの音がー!とか、金縛りー!とか、壁に黒い影がー!とかじゃなく、ご飯を炊くってなぜよ?
そんなんじゃほっこりしちゃうじゃん、ねー。
仕事から疲れて帰ってきたらホカホカご飯が炊けてるのは少し嬉しいかもと思ったけど、実際はオバケが炊いたご飯を食べる気になるかはどうだろうねえ。
しかし、部屋のどこかに実は知らない他人が隠れていて…じゃなくてよかった。人間の方がよっぽど怖ろしい。
友人のAちゃんは、あるきっかけがあって、そこから短期間だけ霊感体質っぽくなった。
こぐま座(わたし)には、仕事ができるやり手のおばちゃんが憑いてる、除霊は出来るけどそのまま放って置いてもでもいずれ離れていくと思うよ、とAちゃん。
そんなこと言われたら気になるじゃないですか。
Aちゃんが言うには、本来はマイペースな行動パターンのこぐま座がシゴデキおばちゃんが憑いてるせいでテキパキと猛烈に仕事してると。
ん?テキパキ仕事いいんじゃないのと一瞬思ったよね。
たしかに当時はめちゃくちゃ仕事してたわたし。シゴデキおばちゃんに働かされていたのかと思うと複雑な気持ち。
少々惜しい気もしたけどAちゃんにシゴデキおばちゃんを取ってもらうことにした。
Aちゃんはこぐま座の背中に手を当てただけで胡散臭い呪文みたいなのを唱えることもなく、ものの数分で除霊はあっけらかんと終わった。
除霊後は急に仕事を怠けるこぐま座になったとかは全くなく、シゴデキおばちゃんが居なくなったことを実感できることは何もなかったのだけど…
一週間後にAちゃんから電話があった。
あの後、帰り道で迷ってしまった、こぐま座の家から地下鉄まで行くのに逆の方角へ歩いて行ってしまった、何度も来てる馴染みの道で迷うはずないのに。シゴデキおばちゃん、けっこう強かったんだねと。
わわわ。
実は、その一週間は、わたしの方でも異変が起こっていた。
味が分からなくなっていた。何を食べても全然味がしないことが3日くらい続いた。味がしない物を飲み込むことがまるで苦行のようで食べるのを止めた。お腹すいてるのに。
食べる楽しみを削がれたのにはションボリしたけど、呑気なわたしは風邪引いたかもそのうち治るでしょ、少し痩せたじゃんラッキーと思っていた。
そうか…もしかしてシゴデキおばちゃんの置き土産だったのかしら?
見えないものが見える系の話はもう少しあるんだけど、別の機会にまた。