【偏見に踊らされるな】自作PCの電源選びをIntel ATX3.0デザインガイドから学ぶ
人間なら誰しもが生まれ持つ、ネガティブバイアスを刺激するタイトルにしてみました。バカ胡散臭いですが、記事は真面目ですのでギャップ萌えにご注意ください。
「結局いい電源って何?」と言う疑問への私個人の考えをIntel ATX3.0デザインガイドを元にまとめました。
ATX3.0デザインガイドをすべて読み尽くしているわけではないので、参考程度にお読みください。
また、私は業界人ではなく、趣味で自作PCを嗜んでいる者です。間違えがありましたら遠慮なく指摘していただけると嬉しいです。
ー初中級者向けー
・ATX3.0対応を謳っている電源を選んでください。
ATX3.0では最新のGPUに対応した規定が盛り込まれているので、トラブルが起こりにくいです。
・RTX4080クラスのTGPなら750W以上、RTX4090クラスのTGPなら850W以上の電源がおすすめです。
一見すると少なく思えますが、ATX 3.0電源はGPUが発するスパイク電圧に耐性があるため、システム全体がフルロード時に必要とする最大電力が、電源の定格出力を下回っていれば問題ありません。
ー上級者向けー
・レビューを参考にする場合、Tom's Hardware、Cybeneticsといった測定機器を公開しており定量的な比較ができる媒体を選んでください。
・電源自体の品質として気にすべき最重要要素
1.「単純な負荷による電圧変動偏差」
負荷による電圧の低下は電源にとって避けるべき現象です。電圧の低下によって必要な電力の供給が行えなければPC全体の安定性に影響を与えると同時に、マザーボードやGPUのVRMといったDC-DCコンバータに負荷をかけることを意味します。少し本質とはズレますが、電圧の低下がPCの安定性に影響を与えるか手軽に実験したいなら、CPUの低電圧化を行ってみるのがいいと思います。CPUが本当に必要とする電力を下回ると間違った演算結果を出し始め、最終的にはOSやハード的なエラー訂正の許容範囲超えてクラッシュします。(自己責任でお願いします。データは飛びます。)
また、Intel ATX3.0のデザインガイドでは、12vレーンの許容下限電圧がATX2.0の11.4vから11.2vに引き下げられていますが、これは下記のスパイク電圧対策を考慮したものと明記されています。また、スパイク電圧に対応するため(スパイク負荷時に電圧が下がりすぎないよう)公称電圧を12.1v~12.2vに引き上げていいとすら記述されています。
これは個人的な見解ですが、一定の負荷で製造直後の初期段階から12vを下回る電源は劣化によってさらに降圧した場合に電力供給不足を引き起こし、トラブルの原因となる可能性が高いと考えています。以上の理由から、製造直後であれば負荷をかけても12v以上を保つ電源が長く使う上では望ましいと言えます。
2.「スパイク電圧に対する安定性」
近年のハイエンドGPUはTGPを大きく超える(RTX3090なら最大960W程度)過剰電力が流れることが常態化しており、これを重くみたIntelはATX3.0デザインガイド内の専用ページでスパイク電圧にて詳しく言及しており、非常に厳しい条件が科されています。
要約すると、ATX3.0対応で600WのPCIe 5.0(12VHPWR)出力を持つ電源では、そのPCIe 5.0定格出力の最大3倍を100μs供給し続ける事が必要とされています。
大手のレビューサイトではTransient Responseも計測されていることが多く、その変動量が小さいほどスパイク電圧に耐性があると言えます。
3.「リップルノイズ」
リップルノイズが多い場合、受電側のコンデンサに負荷がかかって温度が上昇し、その結果コンデンサの寿命を縮める可能性があります。
また、私個人の意見ですがPCオーディオを嗜んでいる方は気にかけるべき項目だと考えています。例えUSBバスパワーを分離するDACを使ったとしても、多少なりともリップルノイズがDACへ影響を与え、結果的に聴覚上のS/N比が損なわれる可能性があります。(USBバスパワーを分離するDAC、Chord Qutestにて検証)
以下に記載しているEMIと合わせて考慮するとより良いです。
・その他の重要要素
4.「冷却ファン騒音」
CybeneticsのLAMBDA認証が参考になります。
5.「動作温度」
10〜50度と規定されています。
半導体の寿命は10度上昇するごとに約1/2になるとされており、可能な限り室温に近い状態に保つのが良いです。
しかし、低温に保つためには変換効率を上げるかファンを高速回転させねばならず、特に後者はATX3.0に含まれるCybenetics LAMBDA認証の兼ね合いもあって非常に難しいです。
6.「EMI」
電磁ノイズ。あまりに酷い場合他の機器の誤動作を引き起こしたり、オーディオ機器のノイズ増加などとして実害が現れることがあります。
7.「変換効率」
変換効率が悪ければ、その分エネルギーは熱へと変換されてしまい、冷却ファン騒音の増加や寿命に影響を与えることがあります。
しかし、変換効率を上げるため極力キャパシタを排除した場合、リップルノイズが増えてしまう可能性が高いです。
8.「保護回路」
ATX3.0準拠の電源はスパイク電圧に対する耐性を持っているため基本的には問題にならないはずですが、OCPを厳しめに設定しすぎて高負荷時に落ちてしまう、またはOCPが緩すぎて電源内部が極度の高音に晒されたり、危険な状態に陥るといったことがないかを確認すると良いです。
9.「ケーブルの導線の口径」
12VHPWRケーブルは16AWG、24pinは18AWGが推奨されています。
24pinのコネクタハウジングはMolex Mini-Fit Jr. PN# 39-01-2240か同等品、コンタクトは Molex 44476-1112 (HCS)か同等品と規定されています。
なお、PCIe 6ピン、PCIe 8ピンは18AWG導線と規定されているため、IntelのATX3.0を信用するならば、現行の電源で18AWGを採用しているSeasonic製品は必要十分のケーブルを採用していると言えます。
10.「ATX3.0対応の裏付け」
ATX3.0を謳っている電源はCybeneticsでテストを受けているものが多く、そのレポート内で"ATX 3.0 Ready"と言うチェックボックスがあります。
初期のThermaltake GF3 1200WとSilverStone Hera 1200rはこのチェックボックスが入ってなかったとの報告もありますが、現在はチェックボックスが入ってることが確認できます。
https://www.reddit.com/r/buildapc/comments/y43cyp/comment/iz1xg0x/?utm_source=share&utm_medium=web2x&context=3
あとがき
電源において設計ミスをして大きな波紋を呼んだメーカーはいくつかあります。
ファンが何度になっても回らないCorsair、PCIe電源のセンスワイヤからノイズを拾ってシャットダウンしてしまうSeasonic、OCP設定ミスによる異常な故障率を引き起こしたGigabyteなどが代表的です。Galaxy S7で世界中を騒がせたSamsungなども同じですね。
電源はPCにおいて最重要部品であり、一回でもミスをした企業を選びたくないと言う気持ちは痛いほどわかりますし、実際に私もそうでした。
もちろんミスを黙認してそのまま被害を拡大させるようであれば、それは責任のある企業とは言えません。
ただ、様々な所で言われ尽された決まり文句ではありますが、人は失敗をする生き物です。
それと同時に、失敗を訂正しより良い方向に持っていけるのが人間でもあります。
自分の知見を深めるため、あるいは最善の選択をするためには自分の感情は一旦棚に上げ、メーカーの選り好みをせず、現状を客観的な視点で広く見渡すことが重要だと今の私は考えています。
そのため、あえてこの記事ではおすすめメーカーや製品を載せていません。
どうか、少しずつでも視野を広げてみてください。
参考: