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AIにデザインはできるのか? ─ AI画像生成 Midjourneyを使って感じたこと
8月に入ってからTwitterで、よく目にするようになった 「Midjourney」というタグ。“神絵を描くAI”と紹介されることが多く、作画された絵もたしかに美しいものばかりです。画像生成AIは、以前から存在していましたが、誰もが気軽に使うことはできませんでした。
文章から画像を生成するAIってなんだろう?
その点MidjourneyはUIがとてもシンプル。無料で25枚前後の生成ができると聞き、早速トライしてみました。その際に参考にしたのがこのサイト。無料登録の仕方から、基本的な画像生成の設定まで、図解つきでとても分かりやすく説明されているのでオススメです。
画像生成するには、チャットサービス「Discord」が必要になります。チャットルームで「○○な絵が描きたい」と書き込むと、Midjourney Botが画像を返信してくれる感じです。
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/image promptは、「これが絵を描いて欲しい内容だよ」とAIに認識してもらうためのコマンドです。その言葉をもとに画像生成されるので、promptのあとに続く言葉は「呪文」と呼ばれてるみたいです。
早速、A small cake store in a fantastic forest(幻想的な森の中にある小さなケーキ店)という呪文を唱えた結果を見てみましょう。
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1分程でMidjourney Botから自動返信で4枚1組の画像が送られてきました。左上の絵はいい感じですね。そんなときは、V1ボタンを押すと左上に似た新たな画像の生成ができます。数字は一番左上が①、その右が②。下段左が③、一番右下が④となっています。V1ボタンは、「一番左上の画像のバリエーションを作ってね」というコマンドです。
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あれれ? 最初の絵の方がよい雰囲気でしたね。そしたら、ひとつ前に戻ってU1ボタンを押すと、より解像度が高い絵をつくることができます。
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簡単な呪文でもそれなりの絵が生成されますが、Twitterで見かけるような味のある絵を生成しようとすると、工夫が必要みたいです。有料会員になって試行錯誤を繰り返しました。いい感じに生成できた絵の呪文をいくつかご紹介しますね。
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Makoto Shinkai.Tokyo after 100 years.perfect lighting.night town.High Quality,Ultra Detail --ar 16:9
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design.sketch.Spacecraft in the Kamakura Period.perfect lighting.High Quality,Ultra --ar 16:9
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Huge temple by the lake, cygames, perfect lighting,High Quality,Ultra Detail
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月が綺麗ですね, concept art of landscape, Granblue Fantasy, perfect lighting,High Quality
呪文は英語の方がいいのですが、最後のように日本語と英語を混ぜても生成できます。「月が綺麗ですね」の文脈はAIにわかるわけないのだけど、偶然イメージに近い絵が出てくることもあるので面白いです。
AIにデザインはできるのか?
ようやく本題ですが、Midjourneyでデザインはできるのでしょうか? デザインスケッチ、ロゴデザイン、プロダクトデザイン、三つのテーマで画像生成にトライしてみました。
デザインスケッチ編
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design.sketch.a car that looks like a bee.perfect lighting.High Quality,Ultra Detail --ar 16:9
それぽい絵になりました。しかもどことなく蜂っぽいです。実車への利用は難しいですが、ゲームやマンガに登場させるには使えそうですよね。
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design.sketch.a watch that looks like a bee.perfect lighting.High Quality,Ultra Detail --ar 16:9
当たり前ですが、うまくいかないものもあります。言葉を変えてみたり、何度も試しましたが、蜂をモチーフにした腕時計のデザインはうまくいきませんでした。やっぱり、デザインはコンセプトが大事なんですよね。なぜそのスタイリングなのか? なぜその色である必要があるのか? その必然性がないと、このスケッチのようなただのお絵描きになってしまいます。そこをAIに学習させるのは、まだまだ大変そうです。
ロゴデザイン編
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logo design, A&B, High Quality
これは呪文が悪いせいもありますが、模様の羅列が出てきてしまいました(右上はアレンジすれば使えるかも……)。
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logo design, A&B, High Quality, art
呪文に「art」を追加すると、偶然かもしれませんが少し良くなったような……。でも、まだまだ実用レベルには程遠い。「logotype design」 とキーワードを変えてもうまくいきませんでした。
ここでふと思ったのです。「これは誰の為のロゴデザインなんだろう?」。それが分からなければ、AIも答えようがないはずです。
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logo design for a hotel named A&B, high quality
おっ! ロゴっぽくなってきましたね。A&Bの要素は消えてしまったけど、左下のロゴは好きな感じです。さらに、呪文を足してA&Bホテルがどんなホテルかを書き加えると、どうなるでしょうか?
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logo design for a hotel named A&B, The best hotel in the world for hospitality, high quality
あぁぁ、急に黄金に輝く壁紙みたくなってしまいました。ホスピタリティのような、見た目に結びつけづらい概念的な言葉をAIに理解してもらうのは、とても難しいようです。
プロダクトデザイン編
このテーマは前の二つと違うアプローチを考えました。既に存在する素晴らしいデザインにAIの画像をいかに近づけられるか? という方法です。お題は「クジラの形にデザインされたナイフ」。最後にぼくが目標としたデザインもお見せするので、それがどんなデザインなのか想像しながらAI画像の変遷を見るのも面白いかも!?
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a knife designed in the shape of a whale, photorealistic, high quality, unreal engine
いきなり深海水族館みたいな画像が出てしまいましたが、これが最初に生成した4枚です。このあと、数十枚生成しましたが最初のセットの左下、これが一番良かったですね。このあと、ひたすら同じ呪文を唱え続け、生成しまくりました。
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やれどもやれども、近づくどころか遠ざかるいっぽうです。途中でAIが独自解釈を始めて「ナイフとクジラっぽい何か」を描く始末。
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このままでは、埒が明かないと思って、呪文に「使いやすいグリップ」を付け加えました。
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このとき気がついたんです。これは西洋と日本の美意識の違いで、いまのMidjourneyでは永遠に答えにたどり着けないことを。ぼくが目標としていた、デザインはこちらです。
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かわいくないですか!?
クジラの白いお腹を刃先で表現する理にかなったデザイン。愛らしく丸みのある持ちやすいフォルム。このデザイン、日本刀に通じる、日本ならではの美意識に基づいたデザインだと思うんです。
日本刀と西洋の剣の違いはいくつかあります。相手を切るための武器として進化した日本刀。突く武器として進化しながらも、「騎士道」の象徴として装飾品の意味合いが強まっていく西洋の剣。
そして、もっとも特徴的なのは美意識の違いです。西洋の剣は、宝飾や貴金属で飾られたグリップ部分の装飾が美の象徴です。一方、日本刀は真逆。握る部分の柄は脇役で、美の象徴は刃そのものなんです。刀身の反り姿、地鉄と呼ばれる折り返し鍛錬によって現われる模様、焼き入れによって浮き上がる刃紋など、刀身そのもに美しさを感じる、世界的に見ても特異な美意識です。
Midjourneyはアメリカで開発されたので、機械学習に使われている絵のテイストが西洋の美意識に偏っているのは当然のことです。でも、その偏りは補正できるし、日本人ユーザーが増えれば、自然とMidjourneyは日本の美意識を学んでいくかもしれません。事実、リリースから間もないのに日本のアニメに代表される「kawaii」をAIが理解したと話題になっています。
AIはデザインの世界を広げてくれる
音声認識や顔認証、自動翻訳やカメラを使った体温チェックだって、AIの進化スピードは、いつも突然かつ急激です。いまはデザインに使いづらいAI画像生成も、いつどんなカタチに化けるか分かりません。この記事を書いている途中にも「Stable Diffusion」という新たな画像生成AIが発表されました。数年後にはAIでデザインすることが当たり前になっているかもしれません。
数十年前の話しですが、デザインの現場は手描きが主流でした。AdobeのPhotoshopのバージョンが2.0の時代です。マーカーで芸術的な絵を描き上げる、職人みたいなデザイナーがたくさんいたのです。その現場が、デジタル化するのに2年もかかりませんでした。
時代の変化に対応し、スキルチェンジして活躍し続けたベテランもいれば、頑なに手描きに拘り現場を去っていった人もいます。
新しい技術が登場したとき、それが自分のスキルを脅かす存在だったなら、誰でも嫌悪感を抱くものです。でも、距離を置いてる限り「怖い・嫌い」という感情は消えません。
お化けと一緒だと思うんです。薄暗い場所にボ~っと見える白い物体。近づいてみたら、ただのぼろ切れかもしれないし、貴重な絹の反物かもしれません。中途半端に近づくのが一番よくないと思います。近づいて、自分の目で見て触らないと、本当の価値は分かりません。
Midjourneyに関する記事はWeb上に溢れています。それを読んでAI画像生成をわかった気になるのは危険なことです。イラストレーターやデザイナーなど、絵を描くことを仕事にしてる人は、MidjourneyなどのAI画像ジェネレーターを一度は使い込んだ方がいいでしょう。その上で、自分に合ったAIとの付き合いかたを決めるのがよいと思います。
おまけ
今回、Midjourneyを使おうと思った理由は、新しい技術に対する純粋な興味の他にもう一つ目的があって。それは、小説の挿絵が描けないか?という動機です。半年以上、下書きの中で眠らせている掌編小説があるのですが、初めてファンタジー系の物語に挑戦したんですね。物語の世界観が想像できる挿絵を入れて公開したいなぁ、とずっと思ってました。でも、自分にはイラストを描く力がない(よく間違えられますが、イラストレーターとデザイナーに必要なスキルは全く違います)。
Midjourneyで試行錯誤した結果、イメージに近いイラストを生成できるようになりました。自分で書いた物語に、AIの力を借りて挿絵を添える。創作の幅を広げてくれるツールに出会うとワクワクしますね。挿絵が揃ったら、久しぶりに小説を投稿したいと思っています。
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※9月追記
小説記事アップしました