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涙のギフト


男なのに泣くんじゃない!

小さいころ、父によく言われました。平成を過ぎて令和になった今、そんな言いかたをするお父さんは少ないでしょう。でも、そんな時代もあったわけです。

だからですかね、子供のころは人前で泣くことに強い抵抗感があって。公園で遊んで転んでケガをして、膝から血が出ても泣くなんてありえない。血がしたたる膝小僧を友だちに見せて「どうだぁ!」なんて変な自慢なんかしちゃって。誰のかさぶたが一番大きいか競争をしたときもありました。「よっしゃ~、夢の3センチ突破!」「 負けねぇぞ、ぜったい抜いてやるからな!」なんて意味不明な会話をしていました。

やせ我慢がカッコいい、それが男らしい

そんな空気感だったんです、僕が子どものときって。多様性という言葉が一般化した今だと逆にカッコ悪いことかもしれません。

社会人になってからもそうです。仕事で歯ぎしりするくらい悔しい思いをしたって、泣かないですよ。カッコ悪いという思いもあるけど、泣いたら負けみたいな感覚がありますから。仕事で泣いたのは二回だけ。

一回目は、新卒で入社した会社を辞めて転職を決めたとき。送別会の帰りの地下鉄でお礼のメールを携帯から書いてたんです。まだ携帯のメールが250文字しか送れなかった時代です。もうね、半分も書き終えてないのに号泣ですよ。嗚咽がもれるくらいの号泣。はたから見たら別れ話をメールで切り出された彼氏みたいに見えたでしょう。向かいに座るカップルが、ぼくを見てヒソヒソ話してたのを覚えてます。感謝の気持ちが限界を超えると号泣するんだと知った、懐かしい思い出。二回目に泣いた出来事は、一生消化できなそうだから文章にすることはないと思います。


泣くとすっきりしますよね。涙には癒しの力があるといわれている。ホントは泣きたいけど若いときは我慢してしまう。感情にブレーキをかけてしまう。そのブレーキが年を取ると緩まっていきます。

なぜ大人になると涙もろくなるの?

NHKの番組『チコちゃんに叱られる』では、このように説明していました。ひとつは先ほどの感情のブレーキが緩まること。もう一つは「共感力」が高まることです。人生経験を積むことで共感できるポイントが増え、涙もろくなるのだとか。

ぼくも涙もろくなりました。ちょっとしたことで泣けてくる。今まで漠然と見てた景色に人生経験が重なると、まぁ泣けるんです。高校野球や箱根の駅伝だって完全に親目線で見ちゃいます。そうすると何気ないシーンに感動してしまう。

一昨年の甲子園だったかな? スコアラーでベンチ入りしたマネージャーの女の子が試合に勝った相手高校の校歌をベンチ前で聞いているんです。キリッとした凛々しい表情のまま、ひとすじの涙が頬を伝う場面がテレビで映しだされました。もう、こっちは鼻水出しながら大泣きですよ。

この舞台に立つまで、どれだけ努力したんだろうと想像してしまいます。うちの長男の同級生、N君はプロ野球選手を本気で目指していて、小4から4年間、毎日200回の素振りを欠かしたことがないらしくて。それだけ努力しても、あの場所に立てる保証なんてないんだよな……と思いを巡らすと鼻水が止まらないわけです。

最近なんてアレですよ、孫を見る目線も養われてきました。スーパーで二、三歳の子がお菓子を選んでたんです。大きな目をキラキラさせて、両手に持ったお菓子を交互に見ながら悩んでる。多分、お母さんから一つだけだよと言われたのでしょう。その姿があまりに可愛らしいから、少し離れて見てたんです。ようやく決めたコアラのマーチの箱をグイっとお母さんに向けながら「おうちかえったら、ママにもひとつあげるね」ってニコぉっと笑うんです。

(இдஇ )エエコヤナァ 完全におじいちゃん目線ですね。

大人になると涙もろくなるのは、ギフトなのかなとも思うのです。ギフトといっても贈り物という意味ではなくて、gift「特別な能力」の方。
「おまえもよう頑張ったなぁ。涙腺がゆるむ特別な力を授けよう。あと10年がんばったら、もっと涙腺ガバガバにしてやるからなぁ」と、見えない誰かがくれたご褒美。自分の気持ちをスッキリさせてくれる特別な力。

80歳を超えた母が、手土産で持って行ったおはぎを食べながら「美味しいねぇ」と涙したときがあったんです。ぼくはまだ、何かを食べたときに涙した記憶がなくて。母の涙する姿を見ながら羨ましいな、と思いました。美味しくて泣けるのは最高のギフトだな、と。

noteで手に入れたギフトもあります。
それは、書きながら泣くこと。noteを始めてなければ、書きながら泣くという経験は地下鉄の250文字、その一回だけだったかも。

大変だった子育ての記憶をたどりながら、自分と同じ年齢だった親の気持ちに思いを馳せて、旅立つ友達の気持ちを想像しながら……。noteを書きながら涙したことは何回かあるけど、それも最高のギフトだよな、と思うのです。


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