藍羽放浪記・・・15ページ目
「七月がどこにいるかは知ってる?」
夏希から投げかけられた質問に対して
僕は頭の中で出せる情報を精査しながらゆっくりと口を開いていくことにした。
「…七月はこの世界じゃない別の世界にいる」
「どういう事?」
「パラレルワールドって分かりますか?」
「分かるよ。この世界にも異世界人って呼ばれる人達たくさん来るし。」
「そう…なら話が早いですね。」
「…七月は異世界にいる?」
「そうです。」
一気に空気が重くなる。
あぁ。どうして僕はいつも人と話す時空気を重くしてしまうのか。内心項垂れながら続ける。
「そして今、あなたの元に戻る為にその方法を探している最中みたいです…」
「…おかしい。」
「.…?」
「それを君が知っているということは、君が異世界人か、君は異世界を覗くことができる管理者ということになる。」
なるほど鋭いな。
そういえばほわほわしてるから忘れてたけど元々頭の回転の速い子だった。
まずいな…
「でも管理者の線は薄い。こんなにうろうろしてるわけが無いもの。」
止めなくちゃ
「あ.…がっ.…急に.…なんで…」
止めなくちゃ…バレちゃいけない…僕がこの人を不幸にしたって…
「や…め…」
この"物語"は終わったんだ。
ボクガトメタハナシナンダ。
コノハナシハオワリナンダ。
ツヅケラレナインダ。
.…気が付くと僕は彼女の首に手をかけて壁においやっていた。
もがき苦しむ彼女の姿が目に入る。
そこでふと我に返った僕は慌てて手を離す。
「ケホッ…ケホッ…」
なんてことをしてしまったんだ
あぁ.…また人を傷つけてしてしまった…あぁぁぁぁぁ!!!!!
僕は店を慌てて出ていく…ことは出来なかった。
思考が纏まらない。頭が痺れて動かない。
そして一つだけ自覚した。僕の中にも何かいる。
この世界を"絵本の中の物語"くらいの思いしか持っていない蛇のような何かが僕の中でとぐろを巻いて鎮座している。
やったのは僕じゃない…僕じゃない
ボクジャナイボクジャナイボクジャナイボクジャナイジャナイジャナイジャナイジャナイ..…
そしてまた聞こえてくる
「お前は早めに死んだ方がいい」
あぁ。これはもしかしたらこの「蛇」の声かもしれないな。
床にへたれ込む僕を、目の前の恐怖と憎悪と混乱に満ちた夏希の瞳が僕を見つめていた。
自分が悪人にならずに済んでいたのは
いつも「自分」を「ギリギリでつなぎとめてる何か」
があるからだと思う。
それは「人の目」だったり「人とはこうであるほうがいい」という先入観。
今の自分は傍から見れば「悪人」になったのだろう。
悪い事や正しくない事を見たり、自分がやったとしても「まぁいいかこれくらい。」で済ませれる程度の。
少なくとも「どうでも良くなった。」
そんな事を考えていた時、夏希側の店の壁に、紫色の炎の穴が現れる 。その穴から僕とよく似た顔の、僕とよく似た見慣れた姿の男が入ってきた。
その男は、使う力とは裏腹に氷より冷たい目線を僕に向けていた。
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