藍羽放浪記・・・-???ページ。
俺には過去の「体験」がない。
産まれた時からこの体型だし、物心なんてものは産まれた時からついている。
だが、記憶はある。幼少期やここに至るまでの記憶。
記憶は、日に日に増えていった。
気味の悪い話ではあるが、記憶が増える度に「己の形」が確かなものになっていく気がして心地は良かった。
性格は比較的明るく、人に甘くて優しい。故に、友人が沢山いて、種族は問わず誰とでも仲良くなれる素質があった。
そして年は300超えなのだと。そこまで浮かんでくるなら詳細な年齢を出せよとも思うが、分からないから仕方ない。
そして自分が産まれて少し経った時、自分には特別な能力があるという事を自覚した。
空間を割いてその先を覗いたりそこにあるものを取り出したりできる能力らしい。
それと、俺には「嫁」が居るようだ。
嫁は「狐の霊」らしく、その嫁とまぐわったことで狐火の力も手に入れた。という事のようだ。
どの記憶についても心地の良いもので、全くもって次々生まれてくる記憶に否定したくなるものなんてなかった。心底幸せだった。
だが、状況が変わった。嫌な記憶が頭から離れない。
異種との戦争の記憶。
魚のような頭をした、いわゆる半魚人と俺たち人間の戦争。
その戦争は、海底から浮上した都市から復活した巨大な翼を持つタコのような触手を口に携えた化け物の力によって、人間側が敗北した。
狂気に飲まれ、お互いを敵だと思い殺し合う人々。
それに乗じて次から次へ半魚人に人が食われてく。
他に行き場のない程の憎悪と炎が俺達の世界を飲み込んでいく。
そして海が街を包み込み、炎は消えた。
全てが底についた。
そんな記憶。
初めて頭に浮かんだ時は思わず嘔吐してしまった。
まるでこれだけは「体験」してきたかのような感覚に体が震えて止まらなかった。
俺は己を殺そうとする両親や親友を殺した。
何も出来なかった。
為す術が無かった。当時能力なんてなかった。
いや、あったとしても食い止めることは不可能だったと思う。
ここで初めて疑問に思う。
この記憶達はなぜ生まれてくるのか、と。
1つの仮説を立てて俺は空間に穴を開ける。
何度も何度も穴を開けて.....
見つけた。
俺を象る、元凶。
貴様のやっている事を自覚させてやる。
人を好きに弄ぶ、その醜悪さを分からせてやる。
....そう思っていた。
だが彼は、俺以上に苦しんでいた。
人に怯え、世界に怯え、何も信じられず、まるで廃人だった。
しばらく傍観してる内に俺の性格や環境は、こいつの「理想」なのだと理解した。
戦争については...自分とは元々関係の無いものだったのだと理解した。
何処かで繋ぎ合わせてしまったのだろうということも分かった。
なんて惨めで、醜い。
人のせいにしないと死ぬことを諦められない哀れな奴。
この人間を俺は....
助けたいと思った。
お人好しが過ぎるなと自分でも思う。
ただ、どうもこいつは俺と繋がりが深いように思える。
家族とかそれ以上の何かを感じる。
だから......
お前もこっちに来い。
この世界でのお前の答えを俺に見せてくれ。
元凶はこの世界で何を思うのだ。
お前はどうなりたいのだ。
答えを持って帰ってこい。