藍羽放浪記・・・10ページ目【小説】
星の都、アルカ・ナハトにしばらく滞在することにした僕は、宿屋を探しながら先程の老父の言葉の意味を考えていた。
「あの人には、僕の何が見えていたんだろう…」
そんなことをポツリとつぶやきつつ、歩く。
ここは繁華街のようだけど、噴水のあった広場よりも人が少ないと感じる。
1本の道の両側に様々な店が並んでいる。
魔法を売っているお店や占いのお店が多い印象を受ける。
これだけ同じようなお店があれば、競争率は激しそうだけど…人がいないんじゃ競争率も何もなさそうではある。
辺りは相変わらず暗くて、それぞれの店の看板を照らす街灯はランタンになっている。中で揺らめく炎は安心感を覚える。が、人によっては不気味に感じるかもしれない。
ふと、その中の一つの店に目が行った。
「珈琲…」
これだけ多く魔法や占いの店が立ち並ぶ中で喫茶店らしき場所を見つけた。
海の中でもそうだったが、こういう隠れ家的な店を見るとつい入ってみたくなってしまう。
僕は本来の目的を忘れて、その店のドアノブに手をかけそっと開く。
(カランカランッ)
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」
扉を開くとほぼ同時にフードを深く被った店員らしき人物が僕に声をかける。
…というより、条件反射で出た言葉ような言い方で僕に声をかけたという感じでは無さそうだった。
その声にはどこか覇気のなさを感じる。
喫茶店の雰囲気は喫茶店というよりはバーに近い感じで、壁やテーブル、カウンター等のほとんどが木で出来ていた。
そっとカウンターの1つの席に腰を掛けると
「ご注文お決まりになりましたら、お声掛けください…」
と、カウンターを挟んだ店員が相変わらず覇気のない声で声を掛けてくる。
顔を見ようとしたが…そのフードに覆われた顔は口元すらぼやけてはっきり見えない。俯いてるという訳ではなく「見えない」のだ。
(まぁそういうもんなんだろ)
僕は心の中で呟いた。
この世界に来てからというものの、あまりにも不可思議なことが多すぎて僕も感覚が麻痺してきているかもしれない。
メニュー表はシンプルなもので、カウンターのテーブルに幅20cm、高さ10cmくらいのアクリルっぽい板が立てられていて、そこに光る文字が映し出されている。ここの街のことを考えると、LEDとかではなく魔法で光ってるんじゃないかと考える。
さて、メニューも少ないから選ぶものは決まってる。
よし。
「すみません!」
「…ご注文お決まりですか?」
「はい、珈琲を1つ。砂糖とミルクはなしでお願いします。」
「...…」
「.…?え、えっとそれとこの【占い付きケーキ】を下さい!」
「..…」
「..…..あ、え?あの?」
「...…」
「...…」
何故か続く沈黙。
(カランカランッ)
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」
「ありゃ。主人にも同じ反応しちゃうかぁ。こりゃ改良が必要だ……おわっと!?お客さんだ!?いらっしゃいませ!!」
沈黙を終わらせたのは店に入ってきた…赤い髪を肩くらいまで伸ばした、顔はタレ目小顔といったで青縁のメガネをかけた女性。
服装は、上はブラウスにカーディガン、下は藍色のスキニーパンツという感じだ。
「すみませんその子まだ調整中で誰も来ないかなぁと思ってとりあえず店の鍵も開けたままとりあえず立たせておけば誰か来ても泥棒とかには入られないと思ったもので決してズボラだったとかお客さんどうでもいいとか思ってる訳じゃなくてええと.… 」
…滅茶苦茶早口やん。
あまりにもマシンガンの如く出てくる言葉の羅列にむしろどこで息継ぎをしているのだろうと考えて聞き入ってしまっていた。
そして、僕はこの子を『知っている。』
「…もしかして…小鳥遊…夏希さんですか?」
僕は恐る恐る問いかける。
「え、あ、はい。そうですけど…なんで私の名前知ってるんですか…?」
『小鳥遊夏希』は僕が1度だけ︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎書こうとした"︎︎SF風恋愛小説「ワスレナツキ」に出てくる主人公の1人だ。
その小説の中のイメージしていた通りの人物が、そこにいるのだ。
彼女は怪しい者を見る目で、僕の事を眼から離さなかった。
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