藍羽放浪記・・・11ページ目【小説】
星の都のとある喫茶店に入った僕は、自分の書きかけの小説に登場する「小鳥遊夏希」(たかなし なつき)に出会った。
口ぶりから、この喫茶店のマスターなのだろうか。
小鳥遊夏希は僕が彼女の名前を言い当てたことから、僕を怪しい者と認識したようで険しい表情で僕を見ていた。
「なんで…私の名前を知っているんですか?」
「あ、え…っと」
適当な言い訳が見つからず、どうすべきか必死に思考をめぐらせた。
「とりあえず、七月から離れてください。」
「…え?七月?」
「そう。カウンターの前から離れて。」
「七月…って、この人が?」
「…七月のことも知ってる…?」
「…はい。」
「…分かりました。少しお話しをしましょう。といっても、いくつか質問に答えてもらってから。ですが。」
「一ノ瀬七月」(いちのせ なつき)は彼女の幼馴染で、小説に出てくる主人公だ。
2人は互いに恋人では無いものの、依存関係にあって彼は作中では行方不明。となっている。
彼の名前が出た時の僕の反応を見て、情報が欲しいと思ったのだろう。
それにしても…カウンターの前のこの人物は「七月」と言うらしい。夏希は「調整が必要」と言っていたが…
僕がカウンターから離れる前に、夏希は隣の席に腰をかけて椅子を回転させて僕の方に体を向ける。
その顔は「真剣」といったもので、嘘は全て見抜くと言う意志を感じさせた。
そうして夏希は口を開く。
「まず、あなたの名前はなんですか?」
「…古雅崎藍羽です。」
「出身は?」
「…ここでは無いとだけ答えておきます。」
「ダメです。出身はどこですか?」
「…事情があって話せないんです。」
「そう…じゃあ私のことはともかく、七月のことを知っているのは何でですか?」
「…」
そうなるよなぁ〜って感じの質問が飛んできた。
そして僕の中の仮説はほぼ「正しい」という事になって来ている。
【想像が現実になる世界】
ほぼ間違いなく、今僕が旅しているこの世界はそういったものなのだろう。
となると、「海の中にあった瓜二つの街」は
【僕がやった。】ことになる…
信じたくない…
にしても、こんなにめんどk…..しつk…...いいや。面倒臭い子の「設定」にしていただろうか?
もっと、誰に対しても分け隔てなく明るく接する子って「イメージ 」だったけど…
「七月のことを何か知ってるなら…教えてください.…お願いします…」
次に彼女が口を開いた時に出た言葉は、疲弊しきったそんな言葉だった。
そして理解した。
僕が書くのをやめた事で、この子の「物語」は僕の思考から離れて独自に進んでいるのだ。
永遠に終わらない、永遠に来ないハッピーエンドに苛まれ続けているのだと。
僕は人の人生を勝手に始めて、人の人生を止めてしまっているのだ。
息が…出来ない…
あれ。呼吸ってどうやるんだっけ…
確かこう、吸って…吐いて…
ダメだ。足りない。もっと…もっと…
「…した…!?ちょっ.…!!」
夏希の声が遠くに聞こえる。
僕は今.…座って…ない??
そこまで分かったところで、僕は呼吸が上手くできない中、思考が止まってしまった.…
こうなると誰かの声で決まって聞こえてくる。
【お前は死ぬなら早い方がいい。】
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