藍羽放浪記・・・14ページ目
再び星の街で調べ事をしようと考えて、僕はこの街を散策していた。
相変わらず街並みは寂れていて、人通りも少なければ動物の1匹も見当たらない。
(とりあえず、宛もないし気になった店に入ってみることにしよう。)
そう考えた僕は、その時すぐ右手にあった店の看板にふと目をやった。
【Takanashi magic props】
たかなし.…小鳥遊?
名前につられて店の扉を開く。
(チリーーーン…)
扉を開けると、鈴の音が僕を迎え入れた。
「いらっしゃ.…あ、藍羽さんだ」
予想はしていたが新しい客を相手するのに奥から出てきたのは小鳥遊夏希だった。
「あ、先日はどうもです。」
「まだこの街でうろうろしてたんだねぇ」
「うろうろって…調べ物があって、気になったお店とか本屋とか寄ってみようと思ったら【Takanashi】って書いてあったもので気になって来ました。」
「へぇー調べ物かぁ。何を調べてるの?」
夏希は前とは違って警戒心なんてまるでないですみたいな声色と表情でそう問いかける。
そんな彼女の切り替え具合が逆に気味悪く感じてしまう。
「僕の…いえ、僕の片割れ?写し鏡?についてです。と言うか、喫茶店だけじゃなくて魔法具のお店もやってるんですね。」
「え、あぁー!あれはまだ喫茶店じゃないよ?これからやる予定ではあるけども。」
「え?そうなんですか?綺麗だし、色々と揃ってたからてっきり営業してるのかと…」
「あのお店で店番してた子のこと言ってるのかな?あの子は私が作った…って言うのは恥ずかしいけど、魔道具の【七月】で、本当にすぐ戻る予定だったからお留守番任せてみてただけなんだよ。」
「あ、へぇ〜。そうだったんですね。」
「まぁまぁそれはおいといて。具体的にはどんな悩み事かな?」
「ん〜っと…」
僕は悩む。どこまで言っていいのやらと。
「…そうだ。この指輪…」
「指輪?」
僕は海の喫茶店でハンクから貰った指輪を取り出して夏希に見せた。
「…ほう?珍しいもの持ってるんだねぇ」
「何か知ってるんですか!?」
「知ってる…けど、教える代わりに一つだけ私にも教えて欲しいことがあるんだ。」
「な、なんですか?」
「教えるって約束してくれたら教えてあげる。」
大方、七月に関することだろうと彼女の口ぶりから想像することが出来た。
「内容によ…」
「あーいやいや、今回は前聞いた事と同じことは聞くつもりないよ。答えられないんでしょ?」
「.…」
僕が答えきるよりも早く、彼女は僕の悩みの種を打ち砕いた。
「それなら…いいですよ。」
「うんっ、良かったぁ。取り敢えず、その指輪について説明するね。ちょっとそこで待ってて」
夏希はそう言うと、店の奥の方に入っていった。
しばらくすると分厚い古書を持ってきた。
よくファンタジーとかで見る魔導書のようなものだ。
「ええと…確か.…あ、あったあった。多分これだよ。」
夏希は本を開くとその1ページを指さして説明を始める。
「【写し鏡の一欠片】(マッチングミラーメモリー)。その指輪はメモリのようなもので、人の記憶や能力を保存しておける指輪だよ。容量に際限はなくて、自由に出し入れすることはできるけど、1度取りだした内容のものはその指輪から失われるんだ。」
「なるほど.…」
納得がいった。
ということは、あの時見たあの光景は恭赤の記憶だったんだ。
「指輪の特性として、パソコンとかで分かりやすく説明するとコピーして貼り付けするんじゃなくて、切り取って貼り付けする感じかな。過去に大きなトラウマを抱えた人の記憶を1度指輪に吸わせて、その人が向き合おうってなった時に記憶を戻したり、若い頃の楽しかった思い出を保存して、大人になった時に再体験したような気分になりたい時に使うって感じ。」
「…凄いですねこれ。」
「そうだよ〜でもね。それに使われてる宝石はとても貴重でなかなか手に入るものじゃないんだ。」
指輪の正体はわかった。でも恭赤が指輪に記憶を吸わせたって言うのは少し考えづらい。
だってなんで?そうするべきだった理由が思いつかない。
僕をこちら側に引き込んだ理由が「夢」を追いかけてみろという事で、その為に憎しみの起こるようなものは要らないとしたら少しは説明がつきそうだけど、説得力はあんまりない。恭赤は自己犠牲してまで人を助けるような人では無いはずだ。
「と・こ・ろ・で」
腕を組みながら頭を捻っていた僕を横から起こすように夏希から声をかけられた。
「もう少し情報がいるならあるのはあるけど、その前に1つずつ。私の質問にも答えてもらえる?」
「あ、そうだった。何でしょう?」
「七月がどこにいるかは知ってる?」
前と似たような質問だったが、それなら答えることが出来そうではある。
僕は頭の中で出せる情報を精査しながらゆっくりと口を開いていくことにした。