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判例研究 東京地裁H28.11.28判決

請求棄却判決なのだけど、子の連れ去りに関して、妻及びその両親を共同被告として、損害賠償請求をしたこと、そういう原告に就く代理人弁護士がいらっしゃることを知った

被告Y1(以下、被告は名のみで特定する。)の夫であって、被告Y1と離婚訴訟中である原告が、原告と被告Y1の別居に際し、被告Y1と被告Y1の父である被告Y2及び被告Y1の母である被告Y3が、共謀して、原告と被告Y1間の長男を被告Y1において連れ去り、被告らが共同して監護し、被告らにおいて原告の長男の監護及び長男との面会交流を妨げていること等は不法行為に該当するとして、被告らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、不法行為の日とする原告と被告Y1が別居した日である平成24年4月20日から支払済みに至るまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案

平成28年11月28日/東京地方裁判所/民事第50部/判決/平成27年(ワ)21486号

どうして請求棄却になったのか、見てみる

本件同道等が不法行為に該当するか

 確かに、本件同道によって、共同親権者である原告が、親権の一部である監護権に基づき、現に長男と同居し、監護養育している状態が妨げられ、実際上原告と長男の交流が極めて乏しい状況となり、それによって、原告の心情が著しく害されていることは、原告の主張するとおりである。また、父母の共同監護を受けていて、その共同監護の状況やそこでの父である原告の子の監護が、子の利益に反するとはうかがえない本件において、その父の監護も含めた共同監護から母の単独監護の状況に変更され、実際上原告と長男の面会交流が円滑に実施されていない状況となったことは、子の利益に反する状況であって、そのことは、共同親権下にあった長男の監護権者や離婚後の長男の親権者を定めるにあたって、考慮すべき一事情となる。
 しかし、親権は一次的には子の利益のためのものであって、親の心情や利益を保護することが第一目的でないことからすると、共同親権者である父母の一方が、共同監護下にある子を同道して別居し、自らが子の単独監護者(以下「監護親」という。)となったことのみから、監護をしていない親(以下「非監護親」という。)の親権を侵害したとして、非監護親に対する不法行為上の違法が推認され、原告が主張する厳しい要件の下で違法性が阻却されなければ、監護親の不法行為が否定できないと解することは、論理的に必然ではない。実質的にも、そのような見解を採用すれば、父母間の不法行為等の民事上の紛争が多発し、本来、子の利益のために父母が協力し、監護や面会交流の在り方を協議すべきであるのに、そのような父母の関係の構築を阻む機能を果たすこととなる。即ち、損害賠償請求を広く認める見解を採用すると、父母が、損害賠償請求権の存否、つまりは、自らが考える監護や面会交流の在り方が正しく、他方の考える在り方は誤っていること、さらにいえば、自分自身が正しく、他方が誤っていることを証明することに気持ちを奪われ、心情的な対立を深刻化することとなり、子の利益を第一に考えるとき最も重要な、子の現状や他方当事者の意向を踏まえた、実現可能で、柔軟な監護や面会交流のための協議がないがしろにされる結果が招来されるおそれがある。このように考えると、一方当事者の子を同道して別居したことが不法行為上違法かどうかは、監護親が、専ら、その責に帰すべき事由によって、非監護親の親権を実質的に侵害したと解されるような場合に限られると解すべきであって、それを判断するには、別居前後の父母による子の監護状況、父母が別居に至る経緯、子の同道に至る経緯及び態様、子の意思及び別居後の子と一方当事者との交流に対する他方当事者の態度並びに一方当事者側の対応に加えて、父母間の裁判外や家事調停における合意の有無や家事審判の有無及び内容などの諸般の事情を総合考慮して決することが相当である。
 これを本件で見るに、別居前は原告及び被告Y1とも互いの監護には意見はあったものの、総じていえば、協力して長男に対し子の利益に適った監護を提供していたこと、原告は、仕事から帰宅した後の平日の夜及び休日に、長男の監護に携わり、良好な関係を保っていたものの、主たる監護者は被告Y1であって、被告Y1の監護も概ね子の利益に適ったものであったこと、別居後は、被告Y1が被告Y2と被告Y3の補助を得て、長男の監護に携わっているが、その監護は、現実に長男と原告との交流が乏しい点以外は概ね子の利益に適っているものであること、原告と被告Y1が別居に至ったのは、平成21年5月からの別居を機に互いに相手の理解を得るよう努力を重ねながらも、互いに、本来、理解し合い、許し合うことが可能な程度の認識、考え及び心情のずれしかないのに、被告Y1においてはそれを許せなかったものであり、原告においては、そもそも、ずれ自体に気付かず、かえって、それを広げる対応を取っていたものであるから、本件別居には、原告のみならず被告Y1にも法的な責任はないこと、別居時、被告Y1が長男を同道するに際し、有形力を行使したとはうかがえないこと、被告Y1が長男を同道したのは、共同監護下において、主たる監護者が被告Y1で、長男は被告Y1と親和していて、原告は、昼間は働いており、以前の別居時に、原告が、監護補助者として原告の母の助けを得た実績はあったものの、1週間に過ぎず、継続してその助けを得ることができたか、及び、その具体的内容は当時不透明であったことから、長男を自宅に残すよりは自らが監護を継続することが子の利益に適うと判断したからであること、また、家事審判において監護者は被告Y1と定められ、その後の原告の申し立てた監護者変更審判は却下されたことからすると、被告Y1の判断は後方的に見ても正しいものであったこと、現実には原告と長男の面会交流の機会は乏しいが、被告Y1においては、一貫して、原告と長男との面会交流について、一定の条件の下実施することを容認しており、その条件の定めについて原告と意見が異なるものの、合意が整う、又は、家事審判などで定まるなどしたらそれに従う意思を表明していて、現に、長男を原告に会わせるために本件面会交流事件(被告Y1申立て)の申立てをして、具体的な条件提示などもしており、その事件について審判が出された後、確定していない段階においても、原告に対し、その審判に適った面会交流の実施することを申し入れているのであるから、現実に、原告と長男の面会交流が上記の程度しか実施できていないことについて、少なくとも専ら被告Y1の責めに帰すべき事由によるとはいえないこと、そもそも、面会交流は子の利益のためのものであって、当事者間の合意、家事調停又は家事審判で具体的な内容が形成されていない以上、非監護親に具体的な権利は発生していないことなどを総合すると、本件同道等が、違法であるとは解されない(付言するに、現実に、原告と長男との面会交流が上記の程度しか実施できていないことの直近の直接的な原因は、原告において、監護者が原告となるべきであるから、自由な面会交流を即時に実施しなければ子の利益に反するとの自らの見解を前提に、それ以外の面会交流の実施を拒むという不寛容性にある。確かに、同居時の原告と長男の父子関係の実際や試行面会交流時の長男の対応からすると、最終的にはそのような面会交流の実現が子の利益に適うこととなる可能性もあるが、そうであったとしても、その実現のためには、異なった条件であっても、原告において、一刻も早く、現実に長男とできるだけ多く、長く会い、その条件を整えるべきであるし、何より、直接的な面会交流を実施すること自体については当事者間に争いがなく、長男もその早期の実施を強く望んでいるのに、具体的に会うことをしない原告の対応は、長男の、現実の利益に沿うものとは考え難い。このように考えると、現に、原告と長男の面会交流が、上記の程度に止まっていることについては、本件同道等のみならず、原告の対応も等しく原因となっているというべきであって、専ら、被告Y1の本件同道等によるとは解されない。)。
  そうすると、本件同道等は、不法行為には該当しない。

平成28年11月28日/東京地方裁判所/民事第50部/判決/平成27年(ワ)21486号


どうも、結局、面会交流調停を申し立てているのは、子を同道した現・同居親、というわけなようだ

裁判官は簡単にいう

その実現のためには、異なった条件であっても、原告において、一刻も早く、現実に長男とできるだけ多く、長く会い、その条件を整えるべきである

でも、それがどれだけ、屈辱的か、父母間の非対等性を強いる暴力であることに、あまりにも無自覚に思う

原告の主張も参考に挙げたい

 ア 原告の主張

  (ア) 原告は、本件同道及び被告Y1の単独監護の継続によって、長男を監護する機会を全面的に失い、その後も、被告Y1が、約2か月、原告が長男と電話で話をすることや会うことだけでなく、その協議をすることも拒絶し、被告Y1の実家での監護を継続した結果、この間、原告が、長男を監護する機会をもつことが全くできず、長男との交流を図ることさえ一切できず、その後も被告Y1が長男の単独監護を継続した結果として、4年以上にわたって、原告が、被告Y1との間で個別に合意をしない限り、長男に会ったり電話をしたりすることができず、個別の合意も10回に満たないことからすると、原告が、被告Y1の本件同道(以下、原告の主張においては、「本件連れ去り」という。)やその後の上記一連の行為(併せて、以下「本件連れ去り等」といい、認定事実や判断においては「本件同道等」という。)によって、長男を監護する機会を奪われて親権を侵害され、長男と会うことも電話することも妨害されて父子間交流という法律上保護される利益を侵害されてきたことは明らかであるから、違法性阻却事由が認められない限り、被告Y1は、民法709条に基づき(下記(2)被告Y2及び被告Y3の不法行為も認められたときは共同不法行為として民法719条も適用される。)、原告に対し、その損害を賠償する責任がある。
  (イ) 被告Y1も長男に対する親権を有しているが、そのことのみによって本件連れ去り等は正当化されない。
  なぜならば、民事上の不法行為責任が問題となる場合であっても、平穏に監護されていた子を一方が強制的に連れ去ることは、児童虐待その他の必要性・緊急性・相当性が認められる特段の事情がない限り、許容されるべきではないと解すべきであるからである。この点に関し、児童の権利に関する条約9条1項は、「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。」と定めていることからすると、父母の意思に反して子が父母から離されることは原則として違法であって、違法性阻却事由の有無について厳格に判断することによって、結果として子が父母の意思に反して父母から離されることを抑止すべきである。
  (ウ) 本件においては、次のとおり、違法性阻却事由はない。
  a 必要性・緊急性
  被告らは、別居は止むを得なかったことを前提として、被告Y1が中心となって監護を行ってきた長男を本件同道したことには必要性があると主張する。
  しかし、原告と長男との父子関係は良好であって、原告の意思に反して長男を原告の下から連れ去るべき積極的必要性はない
  また、被告Y1が別居の根拠と主張することは否認ないし争うが、仮に事実であっても些細なことであって、別居は被告Y1の主観的な決断によるものに過ぎず、被告Y1の体調が悪くなっていたことを裏付けるに足る客観的証拠はないことからすると、本件別居はやむを得ないものではなかった。
  さらに、本件連れ去りによって、原告は、その意思に反して、長男から離されたことからすると、少なくとも、別居後の原告による長男の監護に関し、意欲、能力又は環境に欠けるなど、被告Y1が長男を連れ去らない限り長男が監護されないといった、連れ去るべき消極的必要性がなければならないと解すべきところ、原告には、監護意欲、監護能力及び監護補助者などの監護環境もあるから、別居後に原告の下で監護されることを回避するために被告Y1が長男を連れ去るべき消極的必要性もない
  また、被告らにおいて、本件連れ去り自体についての緊急性の主張・立証はない。
  b 相当性
  被告らは、本件連れ去り等に相当性が認められる事情について具体的に主張していないが、被告Y1は本件連れ去りについて事前に原告と相談をしていないこと、これは、長男と原告が話をする必要が無いと考え、長男の養育監護について原告と相談する意思がなかったこと、本件連れ去りが原告の意思に反することは把握していたが、調停手続が始まるまでの2か月間、長男との面会や電話について原告と協議をすることさえ拒絶し、その後も、個別の合意が成立しない限り、一切父子間交流に応じなかったが、反省の気持ちがないこと、原告が長男を監護することが可能な原告の休日についても長男を原告宅に帰宅させて原告に監護させようとしたことがないこと、被告Y1及び被告Y3は、原告を見下し、これを隠そうともしないことからすると、相当性がないことは明らかである。

平成28年11月28日/東京地方裁判所/民事第50部/判決/平成27年(ワ)21486号


原告は、本件連れ去りと呼び、裁判所は、本件同道と呼んだ

同道ってなんだ

連れ去り不問の時代はもう終わりを迎えようとしている

もうすぐ5時ね

連れ去りに対する損害賠償請求、そして、被告になる前に原告になる離婚訴訟の提起が最近のニーズかもしれない

とはいえ、従来のように、時間をかけて離婚を先延ばしにする間に「共同親権」を守りつつ、面会交流を積み重ねていく戦法は未だに否定できない

その戦法において必要なのは、円滑に面会交流を実施・継続するための連絡調整スキルなど、コミュニケーションの問題だったりする

明日、当事務所が会場となる、講座


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