嫡出子差別規定違憲判決に学ぶ落としどころ
嫡出子差別規定が違憲であり、無効であることが確認された。その上で、どういう解決に導くか、別途問題になる。これは、国家賠償請求訴訟ではなく、具体的な遺産分割にあたって、相続分をどうするかが問題になる個別の事件を解決する中で、違憲論が展開された類である。一方で、類似ケースで影響を受ける当事者外の国民もいるわけで、国民全体への配慮も要する。
どのようにしただのだろうか。
先例としての事実上の拘束性について
本決定は,本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断するものであり,平成7年大法廷決定・・・が,それより前に相続が開始した事件についてその相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。
判例変更ではあるけど、過去に解決したケースを覆すものではないという。
他方,憲法に違反する法律は原則として無効であり,その法律に基づいてされた行為の効力も否定されるべきものであることからすると,本件規定は,本決定により遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断される以上,本決定の先例としての事実上の拘束性により,上記当時以降は無効であることとなり,また,本件規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されることになろう。しかしながら,本件規定は,国民生活や身分関係の基本法である民法の一部を構成し,相続という日常的な現象を規律する規定であって,平成13年7月から既に約12年もの期間が経過していることからすると,その間に,本件規定の合憲性を前提として,多くの遺産の分割が行われ,更にそれを基に新たな権利関係が形成される事態が広く生じてきていることが容易に推察される。取り分け,本決定の違憲判断は,長期にわたる社会状況の変化に照らし,本件規定がその合理性を失ったことを理由として,その違憲性を当裁判所として初めて明らかにするものである。それにもかかわらず,本決定の違憲判断が,先例としての事実上の拘束性という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し,いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは,著しく法的安定性を害することになる。法的安定性は法に内在する普遍的な要請であり,当裁判所の違憲判断も,その先例としての事実上の拘束性を限定し,法的安定性の確保との調和を図ることが求められているといわなければならず,このことは,裁判において本件規定を違憲と判断することの適否という点からも問題となり得るところといえる・・・。
以上の観点からすると、既に関係者間において裁判,合意等により確定的なものとなったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが,関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば,本決定により違憲無効とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとするのが相当であるといえる。そして,相続の開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される可分債権又は可分債務については,債務者から支払を受け,又は債権者に弁済をするに当たり,法定相続分に関する規定の適用が問題となり得るものであるから,相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がされたものとして法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではなく,その後の関係者間での裁判の終局,明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用する必要がない状態となったといえる場合に初めて,法律関係が確定的なものとなったとみるのが相当である。
したがって,本決定の違憲判断は,・・・他の相続につき,本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
嫡出子差別規定が違憲であることは以前から指摘はあったものの、どのように調和的に解決するのかという課題があったために、積極的に対策を敷いたのである。合意して解決してしまったケース等には、やや不満もあるかもしれないが、早期解決自体のメリットもあろう。バランスは維持されていると評価できる。
そして、次のように結論づける。
(本件)相続に関しては,本件規定は,憲法14条1項に違反し無効でありこれを適用することはできないというべきである。これに反する原審の前記判断は,同項の解釈を誤るものであって是認することができない。論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく原決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
最高裁は、嫡出子差別規定は違憲であると宣言し、あとは、法的安定性への配慮も示したことで、具体的事件の解決は、原審に差し戻すまでにして、当該個別の事件が確定するのは、差し戻し審を待つこととなる。
だが、長年の課題となっていた、嫡出子差別への違憲宣言は、当該規定の無効、条項の訂正を速やかに導いた。
国民としての課題は、一つ克服したのである。
ただ、嫡出子差別は、相続分の規定の解消だけでは完全に撤廃したとはいえなかったのである。
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