国家賠償請求のハードル
日々ニュースになる国賠もあれば、人知れず、国相手に闘い、勝訴する事件も意外とある。
国賠の中でも、一段とハードルが高いのが、立法不作為を問うという点だ。
そこに至るまでの違憲性は、だれでも吠えやすい。「人権侵害!」というだけで、違憲論を述べたつもりになっては、とてもとても無残に蹴散らされていくので、そこのハードルも高いのだけど、仮に、違憲だと言えた先に、立法不作為を対象とするがために何が問題になるか、少し言及する。
参考になるのは、次の判例だ。
最高裁大法廷平成17年9月14日判決
国会(国会議員)の立法不作為が国家賠償法上違法となる場合を2つ判示している。
「国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。」
ロースクールでは必ず学ぶし、司法試験受験生にとってもなじみがあるだろう。
ただ、一般国民はどうだろうか。
この規範に当てはまる事実の主張も欠かすことはできない。
国賠訴訟というアクションにおいて、やはり、法技術の点で、専門性を要するように思う。そういうのを気にせず、何でもかんでも、「人権侵害だー」と裁判所に押し寄せる、というのもムーブメントになるかもしれないから、応援したい。
ただ、弁護士に依頼する、というときは、まさにこの法技術の面を頼ることになるだろうから、相談者のお気持ち上の「人権侵害」をいうだけの、言われるがままの依頼はお引き受けしない。
方針・表現等は、弁護士の提案に沿っていただくしかないし、もちろん拒否されれば、強制はしないにしても、かといって、依頼者の希望を叶えるためだけに書面を作成・提出するわけにはいかない。
いや、それが、まったく勝利に結びつかず、お気持ちの昇華のためなのだと割り切ってもらえるのならば、付き合いようがある場合もある。
近視眼的に出したい書面を出しました、負けました、納得いかない、では、責任が取れないことになる。
原告になりたいご希望の声も続くからこそ、いずれ原告候補者へのご注意を共有する機会なども設定しなければならないことを想定しつつ、待たずに発信しておく。
ゴールは何なのか。見極めることを、常に大事にしたい。
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